根方街道の西比奈地先から約500メートルくらい北の、小高い丘の竹やぶの中に、里人(さとぴと)が「竹とり塚」と呼んでいる小さな祠(ほこら)があります。
昔、この里に竹とりのおじいさん、おばあさんという仲のよい年寄り夫婦が住んでいました この夫婦には長い間こどもがなく「どうかこどもが授かりますように……」と、朝も晩も神仏に祈っていました。
それは、ある春の日の夕方でした。おじいさんがいつものように竹を切っていると、赤ん坊の泣き声が聞こえてきました。よく見ると、竹の切り株の中に金色の後光につつまれた親指ほどの小さな赤ん坊がいました。これは神様が授けてくれたにちがいないと、大喜びで家につれ帰りました。
おじいさんと、おばあさんはこの赤ん坊に“かぐや姫”と名づけ、大切にそだてました。かぐや姫は一日ごとに大きくなり半年もたつと輝くように美しくなりました。
美しいかぐや姫のうわさは、四方の国々や都にも伝えられ、公卿(くげ)や大臣が「嫁にほしい」と申しこみました。けれども姫は「わたしはどこにもいきません」と断りました。
幾月かたって、月がおぼろにかすむころになると、姫は物思いにしずむようになりました。 おじいさんとおばあさんが心配して、そのわけを聞くと、姫は泣く泣くそのわけを話しました
「わたしは月の世界の人間です。今度の十五夜の晩に月からわたしを迎えにくるのです。おじいさん、おばあさんに別れなければなりません。それが悲しくて……」と泣き伏してしまいました。
おじいさんは、たとえ月から迎えにきても、姫を渡すまいと数千人の武士にたのんで家のまわりを守ってもらいました。
十五夜の晩がきました。おじいさんとおばあさんは戸締りをしっかりして、姫をしっかり抱いていました。やがて月が曇ると東の空から紫の雲に乗った、おおぜいの天使が、空飛ぶ車を引いて音もなくおりてきました天使のひとりが「姫よ!さあ天国へ帰らなければなりません」というと、姫のからだはスルスルと空飛ぶ車の中へ入ってしまいました。
おじいさんとおばあさんはその場に泣きくずれ、武士たちは力がぬけ、ぼうぜんとしていました。
かぐや姫は「長い間おせわになりました。すえ長くお達者で……」と、不死の薬をかたみとして残し、手をふりながら月夜の空にのぼっていってしまいました。
おじいさんとおばあさんは、かたみの不死の薬を、日本一高い駿河の山に登って燃してしまいました。それ以来、この山のことを不二(ふじ)の山というようになり、煙のたえることがなかったといわれています。 (鈴木富男稿)
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( 写真説明 ) かぐや姫の竹とり塚