豊富で良質な地下水源に恵まれている富士山ろく。湧(ゆう)水はから富士山のふもとに暮らす私たちの生活用水や農業用水として利用され、製紙や電子機器産業など工業の発展にも大きな役割を果たしています。
今回は、私たちの生活に欠かすことのできない「富士山のわき水」をキーワードにお送りします。
※富士山ネットワーク会議
富士山ネットワーク会議は、富士山のすそ野に広がる4市1町(富士市・富士宮市・御殿場市・裾野市・小山町)が互いに交流を深め、富士山ろくの魅力を広く発信するために結成されました。
【小山町】
20か所以上で湧水が見られる小山町。特に、須川(すかわ)湧水群と阿多野(あだの)用水の水源は水量が豊富で、小山町特産の水掛け菜やワサビをおいしく育成しています。
■インタビュー 小山町役場 まちづくり推進室湧水担当 池谷 精市(いけや せいいち)
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昨年の台風9号による集中豪雨で、小山町の湧水池は大きな被害を受けました。水掛け菜やワサビ、水稲などを育ててきた須川湧水群の取水施設が壊れ、阿多野用水の水源にある堤も決壊しました。約340年の歴史を持つ阿多野用水が断水するのは、関東大震災で水門が崩壊して以来のことです。
富士山を背に、再び菜の花やワサビの花が咲き、金色の稲穂がきらめく小山町の自然豊かな風景を取り戻すために、一日も早い復興を目指します。
【御殿場市】
20か所ほどの湧水群があり共同利用の湧水池から、民家の湧水まで規模はさまざまです。御殿場ブランドの農産物の生産にも利用され、御殿場らしさの創造に一役買っています。
■インタビュー 御殿場市上(かみ)小林在住 農家 勝又 政昭(まさあき)さん
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明治時代から始まった北駿(ほくすん)地方のワサビ栽培は、この地域のあちらこちらの富士山の湧水に支えられています。私は、北駿地方のワサビの品質は日本一と自負しています。ミネラル豊富な湧水が、ワサビの辛みを最大限に引き出し、風味に磨きをかけてくれるからです。
ときには、湧水を自宅の飲料としても利用します。御殿場市の水道水はおいしいですが、湧水を沸かして飲んでみると、そのまろやかさは格別です。
【裾野市】
裾野市富沢(とみざわ)にある不動湧水は、上流に不動尊があることから「不動さんのわき水」と呼ばれています。湧水量が多く、枯れることがなかったため、水不足の危機から人々を救ってきました。
■インタビュー 裾野市富沢地区在住 渡邉 隆徳(たかのり)さん
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私の住む富沢地区は、地下の岩盤が富士山の溶岩なので、井戸を掘ることが難しかったと聞いています。そのため、飲料水として不動さんの水をくんで生活していた人が多くいました。
また、昔は10町歩(約10ヘクタール)の田んぼの水を不動さんの湧水が賄っていたとも言われています。今でも飲料水としてくみに来る人も大勢います。
これだけ清らかな水なので、周りの自然環境ともども、いつまでも残していきたいものです。
【富士宮市】
工業への利用のほか、日本一の生産量を誇るニジマスの養殖など「フードバレーふじのみや」の豊富な食資源をはぐくむ源として、大切に利用されています。
■インタビュー 株式会社白糸(豆腐・ゆば製造)代表 村松 守さん
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豆腐の成分はおよそ86パーセントが水分ですので、豆腐づくりは「水」が命です。富士山からの湧水がなければ商売になりません。創業110年になりますが、創業以来地下100メートルからの湧水だけを使用してきました。
富士宮市の水道水は都会に比べればおいしいと思いますが、やはり湧水と比べるとその違いがよくわかります。おいしくてバナジウムを含む豊富なわき水を利用できる環境にあることを、とても幸せに感じています。
【富士市】
市内でも特に湧水量が多い原田・吉永地区一帯は、「泉の里」と呼ばれています。生活用水として利用されるだけでなく、湧水池は地元住民の憩いの場となっています。
■インタビュー 法雲寺住職 まちの駅「わきみず寺」駅長 藤田 文峰(ぶんぽう)さん
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富士山の雪解け水が一年中わき出ている法雲寺は、まちの駅「わきみず寺」として皆さんに親しんでもらっています。
富士市の湧水は長年、製紙業に利用されてきましたが、境内にわく水を調べたところ、飲料水としての基準を満たすだけでなくバナジウムが含まれていることもわかりました。富士のふもとに住む私たちは、災害時にも安心して飲める水が身近でわいていることを宝と思い、これからも、バイカモが育つ清らかな水の流れを大切にしたいですね。