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私たちの足として利用されてきた路線バス。
市民の生活の中で、路線バスは公共交通の一つとして、大きな役割を果たしてきました。
しかし今、利用者数が大幅に減っているなど、路線バスは大きな岐路に立たされています。
今回は、この路線バスについて一緒に考えてみませんか。
富士市は自動車がとても多い街
富士市は1世帯当たりの自動車保有率が県内ナンバーワン
自動車を持つ人は年々ふえています。
平成12年国勢調査によると、市民の約7割の人が、通勤・通学に自動車を利用しています。路線バスや電車など、公共交通の利用率は1割にも満たなく、富士市は自動車への依存度が非常に高い街であることがわかります。
また、1世帯当たりの自動車保有台数は、県内で1番高く2.29台。昭和45年ごろは1世帯に1台程度でしたが、今では1人1台という時代になってきているようです。
自動車は、自分たちの行きたい場所へ好きな時間に行くことができる自由で便利な交通手段。自動車の便利さを覚えた私たちは、路線バスを見つめ直すことができるのでしょうか。
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( 図表説明 ) 富士市民の通勤・通学の利用交通手段/「平成12年国勢調査」から
市政モニターの皆さんに聞きました
市では、市民の声を聞くために、市政モニター制度を取り入れています。昨年、市からのアンケートに答えていただける人を100人募集しました。
今回は、路線バスについて聞き、91人に回答していただきました。
*小数点以下2けた繰り上げ
Q.あなたは路線バスを利用しますか
以前は利用していたが現在は利用しない 46.2%
たまに利用する 28.6%
一度も利用したことがない 23.1%
頻繁に利用する 2.2%
Q.路線バスに対する考え方を教えてください
これからも路線バスをあまり利用しないが、万が一(自動車がない時・高齢になったとき)のために路線バスは運行していてほしい
60.4%
不満な点が改善されれば、もっと利用したい
26.4%
今も路線バスを利用しており、今後も路線バスを利用したい
5.5%
バスは利用しない 5.5%
やむを得ず、路線バスを利用しているが将来はほかの交通手段を利用したい
1.1%
わからない 1.1%
Q.あなたが路線バスを利用しない理由は何ですか(複数回答可)
自動車の方が便利で快適だから 45.1%
運行便数が少ないから 23.1%
行きたい場所に直接行けないから 19.8%
バス停まで遠いから 9.9%
バス停と駅が遠いなど乗り継ぎが悪いから 8.8%
その他 8.8%
バイク・自転車の方が便利で快適だから 7.7%
バス料金が高いから 5.5%
Q.富士市内から路線バスがなくなったらどうしますか
自分は困らないけど困る人はいると思う 75.8%
非常に困る 22.0%
全く困らない 1.1%
特に何も思わない 1.1%
自由意見
◆人がほとんど乗っていないバスを見かけると、もったいないと思います。(34歳・女)
◆路線バス問題は大変難しい問題ですが、公共の福祉という面から考えれば、市の財源を投入しても存続は必要だと思います。(63歳・男)
◆富士市にこれだけの人口がありながら、バス利用者が減っているのは人の流れが変化しているからだと思います。バス会社は、他県や外国の事例を学び、努力する必要があると思います。(36歳・男)
◆都会では、バスの利用者は、かなり多いように思います。自家用車の維持費、健康、環境などのことを考えると、これからの時代は、バス利用の促進について行政も考える必要があると思います。(53歳・男)
◆子どものころ、バスはあこがれでした。でも、今はバスを利用していません。地域の状況に合わせた運行を行えば、利用者はもっとふえるのではないでしょうか。(39歳・女)
路線バスを利用しない理由
市民は、あまり路線バスを利用していないようです。
そこで、路線バスを日ごろ利用していない人に、話を聞いてみました。
自動車通勤をする・伊藤 由季子 さん(本町)
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やはり、自動車は便利ですね
私の主な交通手段は自動車です。勤め始めたころは、通勤に電車やバスを利用していましたが、所要時間がかかってしまったり、何か用事があるとき自由に移動できなかったりすることから、自動車で通勤するようになりました。
町中に住んでいるため、バス停も近く、バスの運行本数も多いのですが、目的地までどのような路線で行けばいいか、どのくらいの時間がかかるのかなどがわからないので、バスの利用は敬遠してしまいます。
高校生のときには通学などでバスを利用する毎日でしたが、今では自動車のない生活は考えられません。
自動車運転免許を持たない・鈴木 雅子 さん(大淵)
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自動車を運転できる人が頼りです
私は、16年前に高山(青葉台地区)に引っ越してきました。以前は津田に住んでいたので、生活範囲は徒歩や自転車で移動できました。しかし、今は坂の多い土地に住んでいるので、徒歩や自転車は大変です。自動車運転免許を持っていない私は、買い物や通院など外出するときは、移動手段を考えなければなりません。
現在、どこかへ行くときは夫や友人、近所の人など、自動車を運転する人に乗せてもらいます。どうしても手段がないときには、バスを利用することがありますが、近所を通る路線は運行本数が少なかったり、目的地に着くまで時間がかかったりするので、利用するのをためらってしまいますね。
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路線バス利用者は減っている
利用者は10年前の約4割
路線バスの利用者は、昭和43年をピークに年々減少しています。平成15年の1日平均乗降人数は約7,000人で、路線数は61路線。10年前と比べると、乗降人数は約4割、路線数は約半数に減少しています。
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( 図表説明 ) 富士市の路線バスの1日平均乗降人数と路線数/「富士市統計書」から
このままでは路線バスが消える?
平成12年5月、道路運送法が改正されました。この改正により、路線の廃止や変更の手続が変わり、事業者は採算の合わない路線を比較的自由に廃止でき、また事業者の資格があれば、新規参入が自由に行えるようになりました。この改正に伴い、市内のバス会社である富士急静岡バスは、廃止などの路線整理を行いました。
このような中、市では市民の足としてバス路線を維持するため、富士急静岡バスから運行支援を求める申し入れを受け、14の赤字路線に補助金を交付し、支援を行っています。
市で支援してはいるものの、利用者が減ると、バス会社は路線や運行本数を減らし、路線バスが不便になり、ますます利用者が減るという、悪循環が生じてきます。
富士急静岡バス代表取締役社長・早川よし彦(ひこ)さん
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静岡や浜松のように路線バスが活発に走る街にしたい
路線バスの理想は、利用者をバス停で待たせないことです。しかし、市内を走る路線バスはそのような状況にありません。
私たちは一企業であるため、採算が合うように運営していかなければなりません。一運行に利用者が一人二人ではその路線は赤字になってしまいます。現在、富士駅と吉原中央駅を結ぶ路線など、利用者が多く黒字を出している路線もありますが、ほとんどの路線は赤字です。
悲しいことですが、現状では外出するときの交通手段として、路線バスを考える人は少ないのではないでしょうか。皆さんが交通手段の一つとして、選択肢に路線バスを挙げるようになり、富士市を静岡市や浜松市のように路線バスが活発に走る街にしたいですね。
そのために、利用者の声を参考に路線や時間を変更するなど、いかに利用していただくかを日々検討しています。
しかし、自動車という便利な交通手段が発達した今、私たちバス事業者だけでは路線バスを守ることは不可能です。少しでも路線バスを利用する人がいれば、路線バスがなくなることはありません。今後は行政や市民の皆さんとともに、路線バスを守っていきたいです。
街から路線バスがなくなったら
年々、利用者数と路線数が減少している路線バス。一体、どこまで減ってしまうのでしょう。私たちの街から路線バスがなくなってしまったら…。皆さんは、どう考えますか。
「交通弱者の存在」
路線バスを頼りにしている人たち
子どもやお年寄りなど、自動車を運転できない人がいます。路線バスの利用者が減少していると言っても、路線バスを頼りにしている人たちがいます。
路線バスがなくなると、自動車運転免許を持つ家族に送り迎えを頼まなければならないなど自由に外出できなくなり行動範囲が制限されてしまいます。
いつまでも自動車を運転できない
市民の多くが自動車で移動している街、富士市。今は自動車で移動できるので、路線バスなどは必要ないと考えている人がほとんどだと思います。
しかし、いつまでも自動車を運転できるとは限りません。高齢になると、とっさの判断力などが低下するため、いつかは自動車運転免許を警察に返す日が来るかもしれません。もし自動車を運転できなくなったらどうしますか。
バス通学をしている・内山 友香理さん(本市場)
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人とのふれあいなどよい経験ができます
私は、通学にバスを利用しています。自転車で通うことも考えましたが、自宅から高校まで遠いこともあり、バスで通うようになりました。私の通っている高校では、自転車通学の人が多いのですが、雨の日などはバスで学校に来る人がふえますね。親に送り迎えしてもらう人もいますが、両親が働いていると難しいですよね。
バスに乗ると、ふとしたことから、ほかの乗客と話をし、ふだん話をしないような人とふれあえます。また、お年寄りなどに席を譲ると、照れくささと同時に、温かい気持ちにもなれます。
バス通学では、ほかではできないようなよい経験ができるように感じます。
日ごろバスを利用する・臼井 五郎さん(三ツ沢)
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路線バスのおかげで外出できます
私の移動手段はバスです。主に、買い物や病院に行くときに利用しています。目的地に着くまで時間がかかったり、途中でバスを乗りかえなければならなかったりしますが、なれてしまえば不便さを感じません。また、友人の勧めで2年ほど前から、70歳以上が利用できるシルバーパスという定期券を使っています。この定期券は決められた乗車区間がなく、どこでも自由に乗れるのでとても便利です。
自動車を運転できない私は、路線バスのおかげで、自分の行きたいところに自由に外出することができます。もし路線バスがなかったら、家族に頼りきりになってしまうでしょうね。
「衰退してしまう市街地」
中心市街地ににぎわいを取り戻す
市では、「中心市街地活性化基本計画」を策定するなど、衰退していく街の商店街に活気を取り戻そうと魅力のあるまちづくりを進めています。
中心市街地衰退の要因の一つに、車社会の進展が挙げられています。駐車場の完備された大型店が郊外に進出したことにより、人の流れは街の外側に向かってしまいました。
市内を走る路線バスは、商店街に近いJR富士駅や吉原中央駅を中心に、市街地を走っています。路線バス利用者が多かったころは、商店街も人でにぎわっていました。路線バスを見直し、魅力のあるまちづくりを行うことは、街の活性化にもつながっていきます。
「環境に与える影響」
車社会と地球環境の関係
テレビや雑誌などで、文明の発達による生活様式の変化が、地球環境に悪影響を及ぼしているという話を聞いたことがありませんか。車社会の発達も例外ではありません。自動車を運転すると出る排出ガス。その中には、地球環境や人の健康に害を与える物質が含まれています。
片道10キロメートルの自動車通勤をバス通勤にすると、地球温暖化に影響を及ぼす温室効果ガスを一年間で1人当たり、約1.2トンも削減できます。
私たちの住む街を守るためにも、車社会について、考え直さなければならないときがきているようです。
路線バスを身近に感じられるように
現在、ほとんどの市民にとって、路線バスはどこか遠い存在のようです。
路線バスをもっと身近に感じてもらおうとする取り組みが行われていることをご存じですか。
将来に目を向けた「こども交通まちづくり計画」
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( 写真説明 ) 市内を走る公共交通を知ってもらおうと10月16日に実施された「1day tripチャレンジャー」
多くの子どもは乗り方を知らない
路線バスに乗ったことのない子どもがふえています。大人がバスに乗らないため乗る機会がなく、路線バスの乗り方さえも知らないそうです。その子どもたちが成長し大人になったとき、路線バスを利用するでしょうか。このままでは、この先ますます路線バス利用者は減少してしまいます。
そこで市では、「こども交通まちづくり計画」として、県内で初めて路線バスなどの公共交通に親しみを持ってもらうための事業を行っています。
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( 写真説明 ) 富士南小学校では、6年生が総合学習の時間に、バスの役割や重要性などを自分たちで考え、発見する授業を行いました。
中心市街地を走るひまわりバス
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100円玉1枚で乗れる循環バス
ひまわりバスは、市民の身近な存在としてバスに親しみを持ってもらおうと、富士急静岡バスが平成11年から運行を始めました。ひまわりバスは、路線バスの利用促進だけでなく、商店街などを通るため、街の活性化にもつながっていくことが期待されています。
町中を循環するバスは、どこまで乗っても100円。路面とバスとの段差が少なく、すべての人にとって優しいバスです。
現在は、富士駅を起点に循環していますが、ことしの12月からは、吉原中央駅を起点としたコースの運行が始まります。この新コースは、富士急静岡バスや市の意向だけではなく、地域住民の皆さんの意見も聞き、より利用しやすくなるよう考えられました。
また、西部循環バスについても、皆さんが利用しやすいように、コース変更などを検討しています。
ひまわりバスが走る地域に行くときは、利用してみませんか。
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( 図表説明 ) ひまわりバス路線地図
かわいい新型バスが登場
新コースの運行開始に合わせ、ことし12月からは、かわいい新型バスが登場します(右写真)。
また、ことしの9月には、ひまわりバスのロゴマーク・キャラクターも募集しました。10月中旬に選考会が行われ、142の応募作品の中から、今泉小学校の木内啓介(きうちけいすけ)さんの「元気号」と、柚木にお住まいの三枝真澄(さえぐさますみ)さんの「ひまわリンダちゃん」の2作品が選ばれました。
これから、どのようなひまわりバスが走るのか楽しみですね。
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( 写真説明 ) ひまわりバスのバス停
( 写真説明 ) ひまわリンダちゃん
( 写真説明 ) 元気号
路線バスをみんなで守っていく
東京工業大学助教授・藤井 聡(さとし)さん
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市民一人一人が年1回乗るだけでもバス事情は変わります
車社会の進展に伴い、路線バスは苦しい状況に陥っています。これは全国的に同じ傾向にあります。
東京など都市に行くと路線バスがたくさん走り、利用者が多いことに気づくかと思います。富士市と都市の違いはどこにあるのでしょうか。それは、ある一定以上の人がバスを使っているということです。バスは共同で乗る乗り物です。みんなが頻繁に使う路線は運行本数がふえるなど、ますます利便性が高くなります。逆に、利用者が少ない路線は運行本数が減り、ますます不便になっていきます。路線バスが、よい方、悪い方、どちらに向かっていくかは利用者数にかかっています。
10万人以上の都市であれば、すべての市民が年に最低1回バスを利用するだけでも、その街のバス事情は変わってきます。ふだんの生活の中でバスを利用できる機会があるはずです。自動車をやめて、いつもバスを利用しなければならないというのではありません。
「バスなんて」という考えを変えて、路線バスに乗ることで自分はちょっといいことをしている、街に貢献しているという前向きな思いを抱いてほしいですね。
都市整備部長・秋山 幸男(ゆきお)
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バスなどの公共交通を「動く公共施設」と位置づけています
市では、バスなどの公共交通を「動く公共施設」として位置づけ、いかによりよい市民サービスを提供していくかを考えています。
今までは、施設や道路など動かない公共施設に重点を置いてきました。しかし道路整備には、ばく大な時間と費用がかかります。都市計画道路のうち、現在整備が終わっている道路は約40%です。今後、残りの道路を整備するためには、3,000億円あまりもの費用がかかると見込まれています。
今後は、公共交通の整備がまちづくりの大きな鍵となり、市民の皆さんにもっと関心を持ってもらうことが必要になってきます。
そのため市では「公共交通検討会議」を設置し、事業者や市民などいろいろな立場の人が集まり、これからの交通のあるべき姿について考えています。
また、未来のまちづくりの主役となる子どもに、今のうちから公共交通の必要性を身につけてもらえるような機会を設けています。
バス路線を支援することは、バス事業者を助けるという視点だけではなく、私たちの街を住みよくするためにも必要な取り組みだと考えています。
市内を走る現在の路線バスには不便さがあります。でもその不便さは、一人でも多くの人が利用することによって確実に解消されます。
路線バスはみんなで守っていくべきものだとだれもが認識すること。まずはそこから始まるのではないでしょうか。
富士市を住みよい街にするために、私たちの足となる路線バスに目を向けてみませんか。
問い合わせ先 都市計画課 電話 55-2785 ファクス 53-2773