性別、年齢、国籍、身体的な特徴など、私たちが住む社会にはいろいろな人が暮らしています。今回の特集では、すべての人が利用しやすいように、物やサービスなどに配慮した「ユニバーサルデザイン」について紹介します。ユニバーサルデザインを通じ、だれもが安全で快適に暮らせる街について一緒に考えてみませんか。
ユニバーサルデザインとは?
「ユニバーサル」とは、「あらゆる、すべての」という意味。「ユニバーサルデザイン」とは、「すべての人のためのデザイン(構想・計画)」ということです。年齢、性別、身体、国籍など、人々が持つさまざまな特性や違いを越えて、初めから、できるだけすべての人が利用しやすい、すべての人に配慮した環境、建物、施設、製品などのデザインをしていこうとする考え方です。
「バリアフリー」を進めた「ユニバーサルデザイン」
「バリアフリー」は、障害者や高齢者に対して、特別な設備や方法で、生活していく上でのバリア(障壁、障害、不便)を取り除いていこうとする考え方です。
「ユニバーサルデザイン」は、施設や物をつくるとき、初めからできるだけすべての人が利用できるようにしていこうとする考え方です。つまり、最初からバリアが取り除かれていることを目指しています。
その意味で「ユニバーサルデザイン」とは、特定の人々を意識した特別の対応を図るのではなく、「バリアフリー」をさらに進めた考えと言えます。
なぜ、ユニバーサルデザインが必要?
年をとり、若いころは見えていた小さい文字が読みづらくなったり、小さな音が聞き取りづらくなったりします。女性が妊娠して、足元が見えづらくなったり、小さな子どもと一緒に出かけたりしたときなど、階段の上り下りが大変に感じることでしょう。また、あるときけがをして松葉づえをついたり、事故や病気で車いすの生活になったりすることもあるかもしれません。
このように個人の特性に変化がある中、その状況ごとに合う物を変えていくことは、時間も費用もかかってしまいます。初めからいろいろな使い手を考えていれば、どんな特性を持っていても柔軟に対応できるようになります。
急速に高齢化や人口減少が進む現在、物やサービスにおいて、高齢者や障害者などを特別扱いせず、自立と社会参加を促進するためにユニバーサルデザインの考えが求められてきているのです。
歩道の自転車が障害に
車いす利用者 市野 隆さん(松岡)
- 写真あり -
同じ車いすの利用者でも、障害の度合いによって使いやすさが異なります。障害者用のトイレがあっても、ドアが重かったり、スロープが急で上れなかったりするときなどがあります。段差はもちろんですが、歩道に自転車が置かれていると困ってしまいます。
音声ガイドがあると心強い
視覚障害者 鈴木 利一(としかず)さん(伝法)
- 写真あり -
歩道のわずかな段差やくぼみでも、つまずく原因になってしまいます。施設などで音声ガイドがあると心強く感じます。私たち視覚障害者は、白いつえを高く上げて介助を求めるサインを出すことがあります。そのとき、声をかけたり手を引いたりしてくれたらうれしいですね。
わかりやすい表示がないと苦労
聴覚障害者 山本 昭吾さん(大淵)
- 写真あり -
視覚情報を頼りにするので、大きな文字などわかりやすい表示がないと大変です。また、買い物をして、レジで合計金額の表示がなく困ったこともよくありました。歩道のないところで、後ろから車が来ると怖いことも…。大切な情報の掲示が、街中でもあるといいですね。
街中で一休みできるところを
石川 たまゑさん(松岡)
- 写真あり -
年をとってくると足腰が弱くなり、手すりなど体を支えるものがあると楽です。バスを使う機会が多いのですが、床が低いバスは乗りおりしやすくていいですね。街中へ買い物に出たときなど、ベンチで一休みできるようなところがあるとありがたいですね。
子ども連れでも優しい場所に
加藤 直樹さん、典子さん(依田橋町)
- 写真あり -
ベビーカーで出かけると、段差につまずいたり、溝に車輪が挟まったりすることがあります。通路や駐車場など通れる幅があるか気になります。子ども連れがよく行くところには、おむつをかえる台があるトイレや、子どもの高さに合った水飲み場などがあるとうれしいですね。
案内表示にふりがなを
佐野 マリサさん(柳島)
- 写真あり -
ペルーから富士市に来て13年になりますが、初めは、駅や施設の出入り口を探したり、お金をおろしたりするときなどあらゆる場面で苦労しました。
案内表示などローマ字のふりがながちょっとでも書いてあるとほっとします。絵を使った看板はわかりやすいですね。
☆身近なユニバーサルデザインの例
- 図表あり -
( 図表説明 ) 電話、キーボードなどの真ん中となる5の数字についた突起
( 図表説明 ) シャンプーボトルの凸凹
( 図表説明 ) テレホンカードの切り欠き
( 図表説明 ) 高さの違う受付台
- 写真あり -
( 写真説明 ) ユニバーサルデザイン点検ワークショップより
まちかどネットワーカー体験レポート
街の中のユニバーサルデザイン
富士市男女共同参画室では、ユニバーサルデザインを男女共同参画プランの主要事業の一つとして推進しています。
1月12日・19日に行われた同室主催のユニバーサルデザイン点検ワークショップに、広報ふじの情報通信員「まちかどネットワーカー」の二人に参加していただきました。
市役所周辺や吉原商店街などでの、高齢者、半身まひの擬似体験を通じ、ユニバーサルデザインについてレポートします。
まちかどネットワーカー
志水 文子(ふみこ)さん(左・柚木)・上杉明美さん(右・森島)
- 写真あり -
( 写真説明 ) 乗りおりしやすい「ノンステップバス」
( 写真説明 ) 車いす用のスロープ
( 写真説明 ) 音声案内がついている銀行の自動預金支払機
( 写真説明 ) 半身まひ体験では、スロープをおりるだけでも大変なことを実感
( 写真説明 ) お店の前のベンチでほっと一息
( 写真説明 ) 自動販売機の商品を取り出すのも苦労しました
( 写真説明 ) 歩道に置かれた自転車は大きな障壁に
( 写真説明 ) すき間を通り抜けるにも苦労しました
( 写真説明 ) 車いすでも入れる自動ドアの電話ボックス
( 写真説明 ) 体験後に点検マップを作成。対比がはっきりした見やすい色の使い方なども話題に上りました。
ワークショップに参加して
私たちの心遣いで解決できることも 志水文子さん
- 写真あり -
擬似体験を通じ、街には自分で回避できない多くの危険があることや、声をかけるなどの私たちの少しの気遣いで、何の問題でもなくなることがあることに気づきました。だれもが幸せに暮らせるまちづくりに、私たちができることは何かを考えるきっかけになりました。
ユニバーサルデザインの考えが広まってほしい 上杉明美さん
- 写真あり -
ユニバーサルデザインにつながるちょっとした工夫や手助けをすることで、使いやすさも大きく違います。みんながこの意識を持てたら、だれもが外へ出ていけるのではないかと感じました。この考えがもっと草の根で広がってほしいと思います。
ユニバーサルデザインは人権の尊重が基本に
ユニバーサルデザインアドバイザー 大河内(おおこうち) 昭宏さん
- 写真あり -
ユニバーサルデザインは、どのような状態でも社会の中で人として普通に生きる「ノーマライゼーション」社会の実現が目的。そのため、障害者、高齢者、男女など当事者の視点で考えることが大切になります。それぞれの目的や最優先にすべきことは何かを踏まえ、人権の尊重を基本に、できるだけ同じ場、同じ物、同じことを、同じようにできることを考えていくことが、ユニバーサルデザインにつながります。
ユニバーサルデザイン点検ワークショップについてのお問い合わせは… 男女共同参画室 電話 55−2724
市のユニバーサルデザインへの取り組み
市では、公共施設で、ユニバーサルデザインを進めています。ことしの春に開館する「(仮称)総合福祉センター・フィランセ」では、随所にユニバーサルデザインを採用。子どもからお年寄り、障害者のだれもが気軽にストレスなく利用できるような施設となります。また、高齢社会を迎え、市営住宅の建設事業で、段差の解消やスロープの設置、中層住宅へのエレベーター設置など、人に優しい住宅づくりを進めています。さらに、庁舎西側エレベーターの改良など市庁舎内部の改善にも取り組んでいます。
このほか、男女共同参画プランでの推進活動の取り組みをはじめ、ごらんの広報ふじでは、「暮らしのたより」の文字を大きくするなどしています。
進めよう!「心」のユニバーサルデザイン
だれもが快適に暮らし、自由に参加できる街にするためには、できるだけだれもが満足するデザインとすることが大切です。しかし、すべての人が満足を得ることは大変難しいのも事実です。費用も時間も必要になります。可能な限り、利用者にとって使いやすいものにし、足りない部分については、道具や技術による支援、そして、周りの人の「心のユニバーサルデザイン」が必要です。
「心のユニバーサルデザイン」は、自分以外の人のことを思いやり、ちょっとした気配りをすること。歩道に自転車を放置しない、車いすマークのついている駐車場に車をとめない、段差のあるところなどで、困っている障害者やお年寄りに声をかけたり、手をかしたりすることなど、私たちの心の持ち方と少しの勇気が、温かなユニバーサルデザインとなるのです。
お互いの個性を大切にし、それを思いやる気持ちが根底になければ、本当のユニバーサルデザインは実現しません。だれにも優しい、だれもが優しい社会を目指して、まずは心のユニバーサルデザインから始めてみませんか。
- 写真あり -
( 写真説明 ) 消防防災庁舎に設けられたファミリートイレ。障害者や高齢者、おむつかえの親子などだれもが使いやすい広いトイレです。また、看板も見やすいように大きな案内表示になっています
( 写真説明 ) 完成間近の「フィランセ」。音声誘導システム、文字表示システムなどを導入します
( 写真説明 ) スロープ、手すりなどを設置した玄関とエレベーター(青葉台公民館)
( 写真説明 ) 車いすの人や高齢者にも 使いやすい昇降式の調理台(富士駅南公民館)
( 写真説明 ) 昨年夏に行われた市庁舎ユニバーサルデザイン化点検