伊豆急下田駅の北西に、「下田富士」と呼ばれる高さ180メートルほどの岩山があります。この下田富士は、富士山と姉妹であったという言い伝えがあります。今回は、この姉妹の富士にまつわる話を紹介します。
富士山がだんだん高くなった話
駿河富士と下田富士は姉妹でした。下田富士が姉で、駿河富士は妹です。とても仲よしで、小さいときからお互いにかばい合ってきました。
姉さんの下田富士は、いつでも妹の面倒をよく見て、雨が降ればからかさ雲をかけてやり、風が吹けば長い雲の手を伸ばして覆ってやりました。
やがて、年がたつにつれて、駿河富士はだんだんと美しくなりました。長いすそをふもといっぱいに広げ、朝日夕日に輝くほおは紅色に染まって、そのあでやかさには、だれもかないませんでした。
それに引きかえ姉の下田富士は、ごつごつしていて美人ではありませんでした。妹に比べて自分が美人でないことに気づいた下田富士は、娘心にそれがたまらない悲しみになって、だんだん妹と顔を合わせなくなりました。そして、とうとう伊豆と駿河の間に大きなびょうぶを立てて、妹がのぞいても見えないようにしてしまいました。そのびょうぶが天城山です。
妹は悲しそうに「お姉様!どうかお顔を見せてください」と叫びながら、つま先で立って背伸びをしました。でも、下田富士は妹の声を聞きながら、ますます体を縮めて顔を見せません。
そのため、下田富士はますます背が低くなり、逆に駿河富士はどんどん背が高くなり、とうとう日本一の高さの山になったということです。
- 図表あり -
平成6年より連載してきた「富士の民話あれこれ」は、今回で終了します。長い間ご愛読ありがとうございました。次回5月5日号からは、「富士の民俗芸能」を紹介します。