富士本(ふじもと)西町を通る県道沿いのヒノキ林の中に、大きく枝を広げた1本の杉の大木があります。
今回はこの一本杉のお話を紹介します。
富士本西の一本杉
昔のこと、ある夫婦が道に迷い、現在の一本杉のあたりにたどり着きました。妻はおなかに赤ちゃんがいたので、やっとの思いでこの地にたどり着きましたが、急に赤ちゃんが産まれそうになり、その場で出産をしました。しかし、赤ちゃんはすでに死んでおり、妻もその場で亡くなってしまいました。
夫は遺体を運ぶこともできず、その場に穴を掘って手厚く葬りました。そして1本の杉を植えました。この杉が、現在ある一本杉であると言われています。
富士本には昔から、鷹岡や杉田(富士宮市)をつなぐ道がありました。雨が降ると堀のように水がたまってしまうような道でしたが、人々にとっては重要な生活道路でした。その道の目印となったのが、一本杉です。昔の富士本周辺は畑が多く、道のわきに伸びた一本杉は大変目立ちました。その姿は富士や吉原の町からも見ることができたということです。
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( 写真説明 ) ヒノキ林の中に立つ一本杉
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( 図表説明 ) 地図
一本杉の近くにお住まいの 渡辺 和作(わさく)さん(大淵)
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昔は、富士本にはほとんど木はなく、一本杉の周りも一面が芝や茶畑でした。私は実家が落合(中野)なのですが、実家からもこの一本杉はよく見えましたよ。村山(富士宮市)の浅間神社のあたりまで見えるほど、とにかく視界を遮るものがありませんでした。しかし、今では植林された木々が大きくなり、一本杉も目立たなくなってしまいましたね。
この杉が植えられたものなのか、自然に生えてきたのかもわかりませんが、昔からたった1本だけ生えていました。いつからこの場所に生えているのかなど、詳しいことを知る人は、この近所でもいないと思いますよ。
今は、根っこの一部が半分そがれてしまっていてあまり元気がないのですが、このそがれた穴にフクロウが卵を産んだこともありました。