【広報ふじ平成11年】富士ヒノキを考える
富士・愛鷹山ろくにひろがるヒノキ林。戦後この地で生を受け、はぐくまれて約半世紀。たくさんのヒノキが晴れの舞台への出番を待っています。今回は、伐期を迎えている「富士ヒノキ」について特集します。
富士の林業
富士市の森林面積は1万630ヘクタールで、市の総面積の約50%を占めています。そのうち木材生産を目的としたヒノキ、杉などの山林は、7,000ヘクタール余りとなっています。そして、その約80%がヒノキです。
植林は明治30年代、金原明善(きんばらめいぜん)翁の指導を受けて静岡県山林協会が桑崎に植林したのが始まりで、内山組合(越前岳尾根通りの西側富士すそ野に至る一帯の傾斜地帯を内山と言います)に受け継がれました。以後、富士・愛鷹山ろくの植林は大いに広まりました。これら植林された木は、第二次世界大戦中乱伐されましたが、戦後、再び植林されたものが成長し、今後伐期(伐採の時期)を迎えるヒノキが急増する見通しです。 「富士ヒノキ」は、富士流域(富士市、富士宮市、芝川町の富士地区の2市1町と、御殿場市、裾野市、三島市、沼津市、小山町、長泉町、清水町をあわせた6市4町)で植栽されているヒノキのことです。
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( 写真説明 ) 治山の碑 内山組合が産業開発優良団体として県知事の表彰を受けたことを記念して、昭和29年に先人の功績を後世に伝えようと建てられました。
( 写真説明 ) 金原明善翁ら大規模植林地(市指定史跡)当時植林された樹齢97年生のヒノキなど約500本が立ち並んでいます。
富士ヒノキが製品になるまで
1 植林
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( 写真説明 ) 森林に新しい命が吹き込まれます。
2 下刈り
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( 写真説明 ) 日光を浴び、丈夫に早く成長するよう、林齢2〜8年生の木の回りに生える革を刈ります。(7回実施)
3 枝打ち
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( 写真説明 ) 節のない木をつくるとともに、太陽光を入れるため、10〜25年生の木の枝を林齢にあわせて落とします。(3回実施)
4 間伐
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( 写真説明 ) 木の成長を促すため、18〜35年生の木を切って木の間隔を開けます。(3回実施)
( 写真説明 ) *間伐された木は、木工製品や建築材などとして利用されます。
5 伐採
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( 写真説明 ) いよいよ伐採。45〜50年生の木を切ります。
6 運搬
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( 写真説明 ) 伐採後、木の長さを3、4メートルにそろえてから富士木材センターヘ運びます。
枝打ちや間伐をしないと、森林内に太陽光が入らず、下草が生育できないため裸地化し、土砂が流出するなど、災害をもたらします。
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( 写真説明 ) ○ 手入れされた森林
( 写真説明 ) × 手入れの悪い森林
( 写真説明 ) *林齢・実施回数は市有林の林業施行指針から
原木から製品へ
県東部地区から集荷された木材の市場
富士木材センター 大淵6978-1 電話35-3577
富士木材センターは、県東部地区で生産された木材の流通・販売の拠点として昭和54年に設立され、静岡県森林組合連合会が運営しています。これまで、丸太自動選別機の設置など、機能を充実させてきました。
平成10年度の取引量(材積)は、3万7,270立方メートル。樹種別の取り扱いは、ヒノキが最も多く、次は杉でした。富士市からは約50%が集荷されていますが、地元(興津川以東)への売り上げ量はわずか18%で、県中部へは66%となっています。
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( 写真説明 ) 自動選別機。原木の長さや太さを自動的に選別します。
富士ヒノキの高付加価値化を担う木材加工施設
富士ひのき加工起用同組合 (くるみの里)大淵4622 電話37-0117
富士ヒノキの高付価値化と資源の再利用を目指して、ことしの6月に開設された、最新型の木材加工施設です。
安定した性能と強度を持つ構造材(桂・土台)を生産するため、人工乾燥機や木の強度をはかるグレーディングマシンを導入。全国に先駆けて、含水率と強度を表示した製品を市場に送り出しています。
愛称名の「くるみの里」は、来て(くる)見(み)てヒノキの香りとぬくもりを感じてもらいたいという願いが込められています。
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( 写真説明 ) 最新型の機械を導入
( 写真説明 ) 含水率と強度を表示
富士ヒノキのぬくもりを伝える小さな街
田子浦港木材共同組合(もくもくタウン・フジ)蓼原889 電話61-2266
もくもくタウン・フジには、富士ヒノキのよさを広く伝えるためのさまざまな施設があります。
「木造住宅展示棟」では、工夫を凝らした住宅が建ち並んでいます。その中に、県で提案した静岡県型木造住宅のモデル第一号として、富士ヒノキを主材とした「富士ひのきの家」が建てられています。また、「富士ひのきの館」では、木工教室や体験教室などが行われています。そのほか、「ウッディショップもくもく」では、家具や置物など木製品が展示・販売されています。
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( 写真説明 ) 富士ひのきの館
( 写真説明 ) 富士ひのきの家
地元の木を使った家づくり
[写真左から]鈴木雅仁さん・諒(りょう)君・ 良枝さん・雅樹君(厚原)
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ことしの3月まで浜松市に住んでいたのですが、両親のいる富士市で家を建てようと思って、家についてのいろいろな情報を集めました。その中でわかったことは、土台と柱をヒノキにしてしっかり建てれば木造住宅は地震にも強いということでした。そして、たくさんのパンフレットの中から目にとまったのは、もくもくタウン・フジにある富士ひのきの家でした。富士がヒノキの産地だったなんて全く知りませんでしたが、地元でとれる木ですから地元の風土に合っているのではないかと思いました。実際に展示場へ見学に行ったところ、室内にも木がふんだんにつかってあってすっかり気に入りました。
金額面では、ヒノキで言えを立てると高くなるといわれていましたが、土台と柱だけはヒノキでつくりたいと思っていましたから、それほど気にならなかったですね。
実際住んでみて、やはり木のぬくもりは気持ちがいいですね。仕事の疲れもとれます。また梅雨どきはしっかり湿気を吸い取ってくれて、じとじとしません。やはり木は違いますね。家になっても生きている感じがしますよ。木をたくさん使いたいという気持ちがかなってよかったと思ってます。
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( 写真説明 ) 厚原にお住まいの鈴木さんの家は、富士ヒノキを使って建てられました。
育林の手伝いで、富士ヒノキへの思いが膨らむ
松本美佐子さん (富士岡)
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以前から自然の中にいるのが好きだったし、森林あっての私たちの暮らしだと思っていたので、森林づくりのお手伝いになればと思い、富士山フォレスターズに応募しました。夏に行う下刈りは、大きなかまを使っての作業で、汗だくになってしまいました。林業の仕事は本当に大変だなと痛感しました。
木が製品になるまでは何十年もかかり、私がやっていることはささいなことかもしれません。でも、自分が下刈りや枝打ちをした富士ヒノキには、大きくなって立派な製品になってほしいと思います。
県富士農林事務所は、富士ヒノキの下刈りと枝打ちを行う森林ボランティア「富士山フォレスターズ」を募集しています
気持ちがよいヒノキの香リ
山口鈴葉華(れいか)さん(2年・比奈) 佐野裕(ゆたか)君(2年・原田)
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新しい体育館は、2学期から部活動で利用しています。ヒノキの香りが体育館いっぱいに漂い、とても気分がいいです。
ヒノキでできた露天ぶろに入っているような気持ちのよさですね(笑)。色も明るいし、節の模様も味わいがあります。新しい体育館になって、練習の雰囲気が変わりましたね。練習していて楽しいし、部員のみんなもとてもはリきっています。これなら次の大会で上位を目指せそうです。
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( 写真説明 ) 10月30日に落成記念式典が行われたばかりの吉原第三中学校の体育館には、富士ヒノキがふんだんに使われています。
21世紀へ・・・夢は富士ヒノキの銘柄化
座談会・富士ヒノキを考える
まちかどネットワーカーの須田敦子(あつこ)さんに司会をお願いし、富士ヒノキの現状、抱えている問題、将来の夢など、林業関係者の3人に話し合っていただきました。
富士ヒノキと市民のふれあえる場所を
まちかどネットワーカー 須田敦子さん
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山の活性化につながる富士ヒノキの将来
富士市森林組合長 渡邉眞吾さん
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富士ヒノキは新しい時代の木
富士ひのき加工協同組合理事長 佐野三郎さん
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環境保全のためにも富士ヒノキの健全育成が必要
富士市林政課長 平井光男
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知られていない富士ヒノキ
須田
今、森林と私たちの生活が別世界になっているような気がします。子供たちの多くは、ヒノキと杉の区別もつかないのではないでしょうか。
渡邉
昔は家庭でたき木を使ったりするなど、木とふれあうことが多く、森林が身近に感じられたと思います。しかし、今では皆さんと林業とのかかわりが薄くなったとつくづく感じますね。
富士市では、戦後にヒノキを大造林したのですが、そのころに林業をやっていた人たちは、年をとってしまったし、その子供たちは山に関心を持たないのです。今では、山を所有している人でさえ、自分の山がどこにあるのかわからない人もいます。これから伐期を迎え、若い人の林業離れがとても心配です。
須田
私も含めて一般の人には、富士ヒノキはあまり知られていないと思いますが、一般の人も富士ヒノキとふれあえる場があるといいですね。
平井
市では、ヒノキを植林する植樹祭を行ったり、親子木工教室を開いたりして、市民の皆さんに富士ヒノキとのふれあいの場を設けています。また、県が2年前に桑崎(勢子辻)に整備した「ひのきの森」には、遊歩道や池などがあり、自由に散策できるようになっています。
佐野
富士ひのき加工協同組合「くるみの里」(P4参照)に大人だけでなく子供たちにも来てもらい、富士ヒノキに親しんでいただきたいですね。
特徴は強度の高さ、しかし…
須田
富士ヒノキの特徴について教えてください。
佐野
富士山ろくの土壌は火山灰なので、養分が少なくあまり木が育ちません。苦労して大きくなったので、年輪の目が詰まっています。ですから、粘り強く、非常に強度があります。強度に関しては、どこにも引けをとらないと思っています。また、しんが真ん中にあり、色が白くて、切ると中が赤く、美人ですよ(笑)。でも、今まで富士ヒノキは見向きもされていませんでした。枝打ち不足から、節が多くなってしまっていたのです。
渡邉
富士市の森林所有者は、極めて零細で機械化も進んでいませんし、外国産の木材との競争もあり、採算性が悪化しています。それに、後継者不足もあって、手入れ不足になってしまう森林も多いのです。
須田
市では手入れの指導をされませんか。
平井
森林は、水源かん養、空気の浄化、土砂流失防止など、私たちの生活にとって大切な役割を果たしてくれています。市としては、健全な森林の育成のため、枝打ちと間伐の補助金制度を設けています。間伐は、国、県の補助をあわせれば、自己負担なく行うことができます。また、富士市林業振興推進協議会(林業関係者と市・県で組織)では、県道富士裾野線沿いの山林の調査を行い、所有者に手入れをお願いする文書を出す予定です。
佐野
ただ、近ごろは木材に対する価値観が変わってきましたね。見た目よりも強度を重視するようになってきました。建築基準法の規定も、来年6月(予定)に仕様規定(幅・形)から性能規定(郷土・含水率)にかわります。このため、節があっても強度があればいいという考え方になってきます。
渡邉
節といっても、あってもよいのは生き節で死に節(枝打ちをしないうちに枯れてしまった跡)はだめです。今でも、節があるよりはない方が高く売れますよ。
平井
製品としても、環境保全のためにも、枝打ちと間伐は必要ですね。
伐採後も生き続ける木
須田
環境保全の話が出てきましたが、伐期を迎えたというと、木を切ってしまうわけですが、木を切るというとどうしても、環境の悪化を心配してしまいます。切った後はどうなりますか。
平井
また、植林していきます。
佐野
木は成長の過程で二酸化炭素を吸い、酸素を吐き出します。しかし、木も年をとってくると新陳代謝が悪くなってきます。世代交代をしないといけません。ですから、成長を見ながら切り、その後に新しい苗を植える。こうした循環こそが環境保全につながるのです。
渡邉
それに計画して切っていくから大丈夫です。成長がとまった木はどんどん切って、新しい木を植えた方が、環境保全にも経済的にもよいのです。
須田
切ると、木がかわいそうだという声もありますが…。
渡邉
「樹齢千年の木は切っても、また千年使える」と法隆寺を改築した宮大工さんが言っていましたが、木は切ってもまだ生き続けているのです。
佐野
木に対する愛情というのは、45〜50年たったら切って、その後は建築材として何十年も頑張ってもらうということです。ぜひ、皆さんに木を切る意義をわかってほしいですね。
富士ヒノキの価値を理解してほしい
須田
そうですね。ところで、富士ヒノキは強度が高いと言いますから、伐採後の木は家の建築材として多く使われているのでしょうね。
佐野
そのとおりです、と言いたいところなのですが…。
須田
それはなぜでしょう。
佐野
富士ヒノキの価値を十分理解してもらえていないからだと思います。日本人は新しいものが好きですし、地震などの災害があって、鉄筋の住宅に人気が集まってきました。また、外国産の木材も入ってきて、ヒノキは高いというイメージもできてしまったようです。しかし、しっかりしたところで建てれば木造住宅の方が長持ちしますし、富士ヒノキを使って建てれば間違いないです(笑)。
渡邉
本当は木造住宅に住みたいと思っている人の数は多いのです。供給側もよいものを安く提供するよう努力しなければならないと思います。
わずかな地元への流通
須田
富士ヒノキの流通先は地元が多いのですか。
渡邉
地元には国産材専門の製材工場が少なかったため、ほとんど西の方へ流れてしまい、今までは地元には20%くらいしか残りませんでした。
佐野
そのため、行政の力も貸していただき、地元でとれた木は地元で製材しようと、「富士ひのき加工協同組合」が設立されたのです。ここができたので、地元への流通が少しずつふえてきました。
須田
今まで地元以外に富士ヒノキが流れていっていたということですが、その先では富士ヒノキとして消費者に渡っていたのでしょうか。
佐野
残念ながら、いい木はこれまで原木のまま各地に運ばれて製材され、そこの銘柄で売られていました。富士市でとれた木が名古屋の製材所で加工されれば東濃ヒノキとなってしまうのです。それが富士市に戻ってきたりするのですよ(笑)。
須田
それでは、原木では富士ヒノキかどうかわからないのですか。
3人
そうです。原木を見ただけでは、どこのものかはわかりません。
佐野
そのために、富士ひのき加工協同組合では角材に加工したものに「富士ひのき」というマークを入れるようにしました。
目指すは銘柄化
須田
富士ヒノキという銘柄で売ろうということですね。それに、木材生産者は高く引き取ってくれるところに売りますよね。
佐野
そのとおりです。夢は富士ヒノキの銘柄化の実現です。現在、富士ヒノキという銘柄をつけ、PRをして知名度を高めようとしています。富士ヒノキは国内産の木材だけでなく外国産の木材との競争にも負けないようにしなければなりません。これからの勝負は強度がポイントになるので、強度の高い富士ヒノキの将来は明るいと思っています。
須田
富士ヒノキの将来は明るいのですね。
佐野
富士ヒノキは新しい時代の木です。「強度が高い富士山のふもとの木」をセールスポイントに、富士ヒノキは世界を制覇するのではないかと思っています。ぜひ、市民の皆さんには富士ヒノキの価値を十分理解していただき地元の木を使ってほしいですね。
渡邉
そうですね。そのためには富士市だけでなく広域で考えて、機械化を進めていきたいですね。
まとめてたくさんの木材を提供できれば、採算が合います。そうなれば、若い人も山に帰ってくるのではないでしょうか。富士ヒノキが銘柄化し将来が開けると、山も活性化します。
平井
富士ヒノキの銘柄化については、富士市だけでなく富士地区、富士流域(P2参照)と広域の行政と林業関係者が一体となって取り組んでいく必要があります。
森林は地下水をはぐくみます。富士市は地下水に頼っています。富士ヒノキを含めて森林は林業関係者だけが守るのでなく、市民全体で考えていくことが大事です。市もPRしていきます。
須田
皆さんのお話を聞いて、林業関係者のご苦労もわかり、富士ヒノキについて理解できたような気がします。ぜひ、林業関係者の皆さんに頑張っていただきたい。そして、多くの人にも富士ヒノキのことを知ってもらって、富士ヒノキの銘柄化が実現することを願っています。皆さん、どうもありがとうございました。
富士市の面積の半分を占める森林。その森林は、私たちの暮らしを守っています。地元の木「富士ヒノキ」の銘柄化は、私たち市民みんなの生活にもかかわる身近なテーマだったのです。皆さんも、富士ヒノキのことを一緒に考えてみませんか。
問い合わせ 林政課 内線2571
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