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【広報ふじ平成10年】富士の民話あれこれ

下川成の歯痛を治す地蔵
 下川成に、不思議な格好をしているお地蔵さんがあります。このお地蔵さんは、歯が痛いときにご利益(りやく)があると言われています。
 今回は6月4日〜10日の「歯の衛生週間」にちなみ、「歯痛を治す地蔵」をご紹介します。

 昔、昔のことです。ある夜、下川成に住むおじいさんは、不思議な夢を見ました。お地蔵さんがあらわれて、「私は田んぼのあぜ道に埋まっています。どうぞ私を堀り出してください」と言っているのでした。
 翌朝、おじいさんは夢でお地蔵さんが言っていたことを村人に話しました。そこで早速、村人たちがあぜ道を掘ってみると、本当にお地蔵さんが出てきました。お地蔵さんの首は折れ、左手は途中で欠けていました。そして右手をほおに当てて痛そうな顔をしていました。かわいそうに思った村人たちがお地蔵さんをきれいにしてあげると、痛そうな顔をしていたお地蔵さんは、とても優しい顔になりました。
 ある日、歯が痛くて困っている村人が、ほおに手を当てながらあぜ道を歩いていました。ふと、お地蔵さんがほおに手を当てているのを見て、「お地蔵さんも歯が痛いのですか?」とお地蔵さんのそばに寄り、お地蔵さんのほおをなでたり、自分のほおをなでたりしていました。すると、困っていた歯の痛みがすっかりとれてしまいました。村人は「ああ、ありがたい、ありがたい」と、手を合わせてお地蔵さんに何度もお礼を言いました。
 それから村では、歯が痛くて困ったときにはお地蔵さんのほおをなで、「早く治りますように」とお願いするようになったということです。
- 写真あり -
( 写真説明 ) 優しい表情をしているお地蔵さん
- 図表あり -
( 図表説明 ) 地図


下川成区区長 長田泰幸(おさだやすゆき)さん (川成島)
- 写真あり -
 「歯痛を治す地蔵」さんは江戸時代の初期の富士川のはんらんで流れ着いたそうです。お地蔵さんの背中には文字が刻まれていて、調べてみると本当は「如意輪観音」だったようです。また、長野県にも「歯痛の観音様」と呼ばれる観音様があり、このお地蔵さんと同じように手をほおに当てているそうです。
 私が子供のころは、この近所では年の暮れにだんごをお供えするなどしてお地蔵さんを祭っていましたし、歯痛でお参りする人もよく見かけました。いまでもお地蔵さんにおさい銭が置かれているので、きっとお参りしている人がいるんでしょうね。
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