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【広報ふじ平成9年】富士の民話あれこれ

矢筒石
 天間田代区の公会堂となっている山神社の東側に、矢筒(やづつ)石と呼ばれる石があります。この石は、高さが1メートルくらいあり、中が空洞になっていて、形が矢筒によく似ています。
 今回は、矢筒石のお話を紹介します。

 昔、天間に鈴木平左衛門という人がいました。この人はよい政治を行い、大豪族となりました。鈴木家は以後も栄えたのですが、十何代かの後、自分の利益しか考えない悪徳の人が当主となりました。
 あるとき、この当主は天間の横道に矢筒石という石があるのを知り、自分の物にしようとしました。 
 矢筒石は特殊な養分を含んでおり、底にたまった水を飲めば胃の病気が治り、顔につければ、そばかすが治ると言われていました。その石を掘り起こすというので、村人たちは大反対をしました。
 しかし、当主は遠くから大勢の大工を呼んで、石の掘り出しを始めました。すると、急に旋風が吹き、けが人が出ました。その後も工事のたびに風が吹き、恐れた工事人たちはみんな逃げてしまいました。
 あきらめきれない当主は、別の職人を連れてきて、石を途中から切断し、ついに屋敷に運び込みました。ところが、当主はこうした横暴がたたり、人々から見放され一家離散の運命に見舞われました。
 それから、矢筒石は、田んぼの中に放置されたまま年月がたちました。
 あるとき、由比町の茶人が矢筒石に目をつけ庭石にしました。ところが、やはりこの家にも不幸が続くようになりました。ある晩、この家のおばあさんが「私は石です。元のところへ帰りたい」という物のけに目覚めました。翌朝、おばあさんは家族にこの話をし、すぐに石を元に戻したということです。
 昭和の初め、当時の青年団が現在の山神社に手厚く移しました。
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天間田代区区長 関根利勝さん
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 矢筒石については、源頼朝が富士の巻き狩りのとき、このあたりで休憩し、この石に矢筒を挿して休んだという話も伝わっています。それに、この石会(いしあい)山神社の裏には、50年くらい前までには弓道場があって、矢とは深いかかわりがあるようです。
毎年10月17日に、この神社のお祭りを行い、矢筒石にしめ縄をして祭ります。でも、地区の皆さんは、あまりこの石の言い伝えを知らないようですね。この地区の民話として、皆さんにもっと知っていただくよう、広めていきたいと思っています。
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