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【広報ふじ平成8年】富士の民話あれこれ

実相寺の仁王さん
 岩本の実相寺は、日蓮聖人(しょうにん)が立正安国論を練り上げ、説法を行った寺として知られています。
 また、この寺にある一対の仁王像は、江戸初期につくられたもので、市の指定文化財になっています。
 今回は、この仁王さんのお話です。

 昔、日本に仁王という力持ちが住んでいました。仁王は日本中の力持ちと相撲や綱引きをしましたが、だれも相手になりませんでした。そんなある日、「仁王どん、隣の中国に『どっこい』という力持ちがいるそうな」と教える者がいました。そこで仁王は「よし、力比べをしてみよう」と舟をこいで中国へ出かけていきました。
 国中を探し、やっとどっこいの家を見つけましたが、どっこいは留守で、ばあさまがいました。「そろそろ戻るから待っていなさい」と始めた飯の支度を見て仁王はびっくり。大きな釜に何俵もの米を入れて炊き出したのです。
 すると、ズッシン、ドシンと地響きが聞こえてきました。仁王が「ばあさま、あれは何の音じゃ」と聞くと「あれは息子の足音じゃよ」。そのうちに家が地震のように揺れ始めました。
 仁王は「これはかなわん、今のうちに逃げよう」と思い、便所から逃げ出しました。
 どっこいが帰ってくると、入り口に大きなわらじがありました。「お客さん?」「ああ、日本の仁王が力比べにやってきた。今、便所に入っているよ」。ところが、なかなか出てこないので、のぞいてみると、もぬけの殻。どっこいは、大きないかりを持って追いかけました。
 遠くに仁王の舟が見えました。どっこいは「力比べをせずに逃げるとはひきょうだ」と言って、舟を目がけていかりを投げました。すると、いかりは見事、舟に突き刺さりました。
 仁王は必死で舟をこぐ。どっこいは綱を引く。二人はお互いに力持ちです。とうとう綱は切れてしまい、仁王は海に落ち、どっこいも力余って海に倒れました。ドドド…。大きな津波が起きて日本と中国に押し寄せ、大勢の人々が死んでしまいました。
 仁王は「悪いことをした。もう二度と力比べはしないから許してくれ」と中国にも行って謝り、日本に帰ってからは、お寺の門番になりました。どっこいも日本にやってきて謝り、「もし、何か力のいるときはおらを呼んでください。そうしたら一生懸命働きますから」と言って帰っていきました。
 それからというもの、今でも人々は力を出すときに「どっこいしょ」とどっこいを呼ぶようになったのです。(日本のふしぎな話「におうとどっこい」から)
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鈴木正義さん(岩本)
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 昔は、実相寺の仁王門の屋根裏にムササビがすんでいたんだよ。仁王門の横に杉の大木があって、門との間を飛び交わっていたっけ。
 仁王さんは、子供にはちょっと怖いものらしいね。このあたりの子供は、悪さをすると「仁王さんのとこへ捨ててきちゃうぞ」とよくしかられたもんさ。
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