エイズの存在については、テレビや新聞などを通して、ほとんどの人が知っているのではないでしょうか。しかし、あなたはエイズのことを本当に知っていますか。あやふやな知識でいたずらに恐れてはいませんか。エイズは、感染しにくい病気です。正しい知識さえあれば、感染する心配はないのです。
今回は、エイズの感染経路や予防方法などについてお知らせします。私たちの心がけ次第で簡単にエイズから身を守ることができるのです。
エイズって何?
1981年(昭和56年)6月、アメリカ国立防疫センターの機関紙上で医学の常識を破る新しい病気が報告されました。それは、非常にまれなカリニ肺炎にかかった患者が、ロサンゼルスで五人も発見され、原因が不明という内容でした。そして翌年9月、アメリカ国立防疫センターは、この病気をエイズと命名しました。
エイズ(AIDS)は、日本語に訳すと「後天性免疫不全症候群」といい、HIV(ヒト免疫不全ウイルス=エイズウイルスのこと) によって引き起こされる病気です。
HIVに感染すると、体を病気から守るために備わっている免疫機能が破壊され、体の抵抗力が落ちます。その結果、健康なときなら撃退できるカビや細菌が体の中でふえてしまい、さまざまな病気にかかってしまいます。それらのことを総称して、エイズと呼ぶのです。
現在では、発病してしまうとエイズを完全に治療する薬はありません。死亡率は高く、発病後、5年ほどでほとんどの人が死亡してしまうと言われています。
AIDS(エイズ):後天性免疫不全症候群
Acquired アクワイヤード(後天性):遺伝はしません
Immune イミューン(免疫):体を守る生体反応です
Deficiency ディフィシエンシー(不全):それが、ちゃんと働かなくなります
Syndrome シンドローム(症候群):いくつかの症状が伴って起こります
HIV:ヒト免疫不全ウイルス=エイズウイルス
Human ヒューマン(ヒト):人間だけが感染したり、させたりします
Immune-deficiency:イミューンーディフィシエンシー(免疫不全):上項参照
Virus ビールス(ウイルス):現時点では最小と思われる生物です
感染源と感染経路
エイズの感染源
●血液 ●精液 ●膣(ちつ)分泌液
エイズの感染源は、HIV感染者、またはエイズ患者の血液、精液、膣分泌液の三つです。これは、HIVが血液中の白血球に取りついて増殖することに関係があります。
白血球は、体内に浸食してきた病原菌を食べてしまう働きがあります。その役目は、Tリンパ球が担っています。HIVは、そのTリンパ球をどんどん減らしながら増殖していくため、白血球を多く含んでいる血液、精液、膣分泌液には、HIVも多く含まれているのです。
HIVは、体外では長く生きられない、熱や消毒液で死ぬ、空気感染しない、などの特徴があります。つまり感染力が弱いので、感染経路は限られています。エイズを必要以上に恐れることはないのです。
エイズの感染経絡
●性行為
性行為によって、感染者の精液や膣分泌液が体内に入り、HIVに感染します。HIV感染者と無防備に性行為をすれば、だれでも感染する可能性があります。
現在、性行為感染は最も深刻な感染経路です。たった一度の性行為で感染することもあります。
●注射の回し打ち
麻薬常習者などが、HIV感染者が使った注射針を回し打ち(静脈注射薬物乱用)すれば、血液感染する可能性は、かなり高くなります。
●母子感染
母親が感染している場合、胎盤を通じて感染する子宮内感染、出産時の出血などによる産道感染
、授乳による母乳感染など、赤ちゃんに感染する可能性があります。
●輸血
提供された血液中にHIVが存在する場合の感染経路。ただし、通常の献血血液は、日本赤十字社で検査されていますので、感染の心配はありません。
●血液製剤の投与
以前、血友病患者の人たちが、加熱処理していない血液凝固因子製剤などの血液製剤によってHIVに感染したことがありました。 血友病とは、血液の中にある凝固因子(血を固める働きをする)が足りないため、出血するとなかなかとまらない病気です。ひじやひざの関節などに内出血を起こしやすく、激しい痛みを伴いますが、血液製剤の投与によって出血がおさまります。しかし、輸入された血液の中にHIVがまざっていたため、血液製剤を通して感染してしまったのです。
現在では、加熱処理によって血液製剤は安全なものになっています。
エイズの現状
エイズ患者は、世界中で短期間に激増し、現在では、約100万人がWHO(世界保健機関)に報告されています。しかし、実際には、患者が約400万人、HIV感染者は、1,600万人に達すると推定されています。
特にアジアでの増加率が高く、世界に占める患者数の割合が1%から6%へと、ここ1年間で5%も上昇しています。
日本での1985年からことしの6月末までの累計報告数は、エイズ患者が764人(うち血液製剤による感染者は450人)、HIV感染者が3,075人(同1,772人)。
年齢別では、女性の75%が20歳代に集中し、男性は30歳代の33%をピークに20歳代から40歳代までが86%を占めています。
エイズの感染経路
- 図表あり -
( 図表説明 ) 日本のエイズ患者の状況
( 図表説明 ) 日本のHIV感染者の状況
エイズの進行
血液・精液・膣(ちつ)分泌液
↓
感染
*感染イコール発病ではありません(HIVが体内に進入しても、すぐにエイズになるわけではありません)
↓
無症状キャリア
感染直後にインフルエンザに似た症状があらわれる人もいますが、その後、まったく症状のない期間(潜伏期間)があります。潜伏期間は、人によって違いがありますが、数か月から10年以上の場合もあります。
しかし、無症状でも感染能力はあるので、自分では気づかないうちに人にうつしてしまう可能性もあります。
↓
エイズ関連症候群
リンパ腺がはれる、発熱を繰り返す、急に体重が減る、下痢が続く、などの症状かあらわれ、徐々に重くなっていきます。これらの症状があっても、HIVが原因とは限りませんが、数週間続く場合は、医師の診察を受けてください。
↓
エイズ発病
体の抵抗力がなくなり、健康なら何でもないような細菌やカビなどに体をむしばまれていきます。
これらは、その代表的な病気です。
□カリニ肺炎
カリニ博士が発見した微生物(カリニ原虫)が、肺の中に寄生して起こる肺炎。エイズ患者の約7割に発生。
□カンジダ症
カビの仲間であるカンジダ菌が、ロの中、舌、食道、胃などに繁殖し、潰瘍(かいよう)をつくる病気。
□カポジ肉腫(にくしゅ)
皮膚にピンクや褐色、紫色などのはん点ができるがんの一種。体のどの部分にできるかは、人によって違う。
エイズの根本的な治療薬や特効薬は、まだ見つかっていません。発病後5年ほどでほとんどの人が死に至っています。
エイズクイズ・Qクエスチョン&Aアンサー
Q・HIVは、まだエイズが発病していない人からもうつりますか。
A はい、うつります。HIVは、エイズ患者やHIV感染者の血液や精液などに含まれているので、これらが直接体内に入れば、感染する可能性があります。
Q・感染した人を刺した蚊に刺されても大丈夫ですか。
A 一匹の蚊が吸った血液の中のHIVの量は非常に少ないので、大丈夫です。計算では、一度に1,000万匹の蚊に刺されないと感染しません。
Q・健康な飼い猫の中にも、エイズに感染している猫がいると聞きましたが、ペットを飼っていても大丈夫ですか。
A 心配はありません。人間は、ほかの動物のHIVには感染しません。それは、HIVがインフルエンザなどと違って、種類の異なる動物の間で感染することはないからです。
Q・せきやくしゃみ、キスなどで、うつることはありませんか。
A HIV感染者のだ液の中にも、HIVがいることが証明されています。しかし、血液と比べると、HIVの濃度が非常に薄いのです。バケツ3杯くらいのだ液が、一度に体内に入らなければ、感染する量にはなりません。
Q・理髪店で顔をそられたときに、傷をつけられ、心配です。
A 歯科、鍼灸(はりきゅう)治療、理髪店では、針やかみそりの使用で血液が付着することもありますが、これらの業界に対する指導で、感染予防の対策がなされていますので、心配ありません
Q・献血、採血、医療行為のときの注射針で感染することはありませんか。
A 現在使用している注射針は、すべて使い捨てですから、感染の心配はありません。
Q・感染者が飲食店などの調理人であった場合、調理された食べ物や飲み物などで感染しないのでしょうか。
A その心配は全くありません。エイズは、食べ物や飲み物、または食器などを通して感染することはありません。
Q・洋式の便座で感染者の使用後に座っても安全でしょうか。また、電車のつり革や手すり、プールやおふろは大丈夫でしょうか。
A 心配はありません。HIVは、感染力がとても弱いので、日常生活で感染する可能性はありません。便座だけでなく、電車のつり 革や手すり、プール、おふろなどからは感染しません。
こんなことじゃ感染しない!!
蚊 ハエ ペット せき くしゃみ 握手 キス おしゃべり 理・美容院 食器やグラス 洋式トイレ つり革・手すり 銭湯 コインランドリー プール お金のやりとり 献血 公衆電話 カラオケマイク
山口多佳子(たかこ)さん
富士保健所保健婦
エイズをもっと身近なことと感じてほしい。エイズの予防方法がわかつているのに、患者や感染者がふえていくのは、「多分大丈夫だろう」という意識の低さからではないでしようか。
- 写真あり -
静岡県内のエイズの現状や予防方法、検査方法などについて、富士保健所の山口多佳子保健婦にお話を伺いました。
−まず、県内のエイズの現状について数えてください。
ことしの6月末までに報告されている県内のエイズ患者は、男性8人、女性1人の計9人です。そして、HIV感染者は、男性14人、女性11人の計25人となっています。患者と感染者の合計は34人で、全国で9番目の数字です。
特徴としては、異性間の性的接触による感染が多く、年齢別では、20歳未満が2人、20歳代は11人、30歳代10人、40歳代9人、50歳以上は2人となっています。
なお、これらの数字は、「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」施行後、凝固因子製剤が原因とされるものは、除外されています。
−富士市内の現状は、どうなっているんですか。
富士市内の現状については、公表されていません。まだ、市民の皆さんのエイズに関する知識があやふやなうちは、患者や感染者の人たちが、差別や偏見の対象となってしまう恐れがあるからです。
−エイズの予防方法について教えてください。
エイズの感染経路は、異性間の性的接触が一番多くなっています。不特定多数の相手とコンドームを使わずに性行為をしない、性行為の相手を限定する、などに注意すれば、かなりの確率で防げます。つまり、体液の交換がなければ感染しないので、コンドームは有効な予防方法です。
また、ほかの人と注射針やかみそり、歯ブラシなどを一緒に使うことは、その人の血液が自分の体内に入ってしまう危険があります。自分専用のものを使いましょう。
−エイズに感染した可能性がある場合、どうしたらいいでしょう。
まず、保健所などに相談してください。匿名で検査が受けられます。相談内容や検査結果などの秘密は厳守されるので、あやふやな自己判断をしないで、心配な人は、すぐに相談してください。
エイズ検査は、採血して抗体の検査をします。HIVが体内に侵入すると、それに対する抗体がつくられるからです。ただし、感染してすぐに抗体がつくられるわけではなく、抗体ができるには約8週間かかります。正確に判定するためには、感染の危険性のある行為から3か月以上たってから検査を受けることがポイントです。
−もし感染していたら…
大変なショックを受けるかも知れませんが、あきらめないでください。AZTやddIなどの薬は、HIVの増殖を抑え、発病を遅らせる働きがあり、治療方法の研究も進んでいます。
また、ほかの人にうつさないよう注意することも大切です。愛する人を守るのは、あなた自身です。
- 図表あり -
( 図表説明 ) 県内のエイズ患者・HIV感染者(合計)の推移
エイズ電話情報サービス 電話053-458-9999 アクセスナンバー4450
エイズに関する基礎知識、予防法、検査の受け方などの情報をお知らせしています。気軽にご利用ください
エイズの無料相談と検査
とき 10月18日(火曜日)、11月1日(火曜日)9時〜11時45分
ところ 相談、検査とも富士保健所
申し込み 電話で富士保健所へ予約してください。
*上記以外でも相談を受け付けており、エイズ講演会の依頼も引き受けます。
エイズ検査は、原則として2,600円かかりますが、検査料が無料となる場合もあります。検査は匿名で受けられ、相談内容や検査結果など、個人の秘密は絶対に守られるので、あやふやな自己判断をしないで、心配な人は、すぐに検査を受けましょう。
エイズに関する問い合わせ、エイズ相談や検査の申し込み
富士保健所 保健予防課 電話65-2155