「大人は、だれも、初めは子供だった。(しかし、そのことを忘れずにいる大人は、いくらもいない)」 『星の王子さま』より
大人から見ると、子供は能力が低く、未成熟な人間かもしれません。教育は必要ですが、だからといって子供を罰するのに暴力を振るってもいいわけではありません。自分が子供だったころのことを思い出してください。未知の可能性を秘めた子供のころのことを…
1989年、国連は「児童の権利に関する条約(子供の権利条約)」を満場一致で採択。そして、ことしの4月、ようやく日本でも条約を批准*(ひじゅん)し、5月に発効されました。この条約の内容は、18歳末満の子供たちにも、大人と対等の人権を認めようという世界的な共通認識に立っています。
今回は、子供の権利条約の内容を簡単に紹介します。「子供の権利」とはどういうものなのか、大人は一体何をすればいいのか、一緒に考えてみましょう。
*批准(条約を国会で確認し同意を得ること)
- 写真あり -
( 写真説明 ) 『WHAT'S?「国連」子どもの権利条件』より
子供の最善の利益
子供っていくつまで? 第1条
この条約では、18歳未満を子供(児童)、18歳からは大人としています。
僕たちを差別しないで 第2条
ちょっと運動や勉強ができないだけで、友達から邪魔者扱いされたことはありませんか。それは差別になります。どんな場合でも差別があってはいけないのです。
条約の中では、人種や性別、宗教、学歴、地位などで差別することをすべて禁止しています。
子供にとっての利益 第3条
子供が成長していくのに必要なことはたくさんあります。安全な遊び場や明るい家庭、きちんと教えてくれる学校、友達などです。法律づくりや政治はもちろん、子供の問題についての取り組みは、子供の最善の利益をしっかり考え、保障しなくてはなりません。
大人や親の役割って何? 第5条
大人や親には、子供を指導する義務や責任があります。子供の権利が守られ、自由に暮らせるよう、いろいろとアドバイスしなければなりません。
大切な子供の自由
自分の意見をはっきりと 第12条
「子供だから」と大人たちが子供の意見を無視したり、ばかにしてはいけません。
自分の将来を左右するような進学や校則問題などに関して疑問を感じたら、自由に発言できるのです。また、残念ながら聞いてもらえなかったときは、いろいろな人に相談して聞いてもらう必要があります。条約では、自分の気持ちや意見を言う権利(意見表明権)を保障しています。
自由に自分を表現して 第13条
ほかの人の権利を奪ったり、心を傷つけたりしない限り、自分の考えや心情を自由に表現できます。
人には絵をかいたり、歌を歌ったり、さまざまな方法で自分を表現できる権利があります。しかし、今の日本では、子供たちが自由に自分を表現し、いろいろなことを知ったり、それを伝えたりすることを押さえつけられていることが多いようです。この権利を大人や親が本当に理解すれば、もっと楽しい生活を送れるでしょう。
思想や宗教の自由 第14条
思想や宗教などの心の問題は、子供たちが成長していく中で芽生えてくる大切な問題。ほかのだれからも強制されるものではありません。例えば、父親が牧師でも子供はお坊さんになることもできます。心の自由は、大人だけでなく子供にとっても大切な権利なのです。
プライバシーの保護 第16条
子供も大人と同じようにプライバシーや名誉が保護されます。例えば、手紙を黙って開けられた、丸刈りにされたなど、子供のプライバシーや名誉を傷つけてはいけません。
子供たちを守るために
親だって子供を殴れない 第19条
昔は、あまりの貧しさに自分の子供を売ったり、暴力を振るったりする親がいました。今でも自分の子供を殴り殺したり、赤ちゃんを捨てたりする事件があります。学校の体罰だって同じこと。大人が子供を殴るなんて許されないことなのです。
養子縁組も子供の利益を 第21条
養子縁組は公の機関が認めなければできません。大人の都合で左右するのではなく、まず子供の最善の利益を優先しなくてはなりません。
子供の健康や文化
障害のある子供への援助 策23条
障害のある子供が尊重され、自立を励まされ、地域社会に積極的に参加できるよう、国は援助をしなくてはなりません。また、障害児には教育、訓練、仕事への準備など特別な配慮が必要です。総合的な援助を行うよう求めています。
だれでも学べる権利 第28条
すべての子供には、教育を受ける権利があります。日本では小・中学校に通うのは、当たり前になっていますが、世界にはまだ子供が学校に行けない国が、30ヵ国以上もあるのです。
人間らしい豊かな発達を 第29条
教育は、子供が豊かに発達し、幸せに生きていく力を身につけていくために、とても重要なことです。子供の人格や才能を最大限に引き伸ばさなくてはなりません。
子供をいじめないで
怖い麻薬を近づけないで 第33条
麻薬やシンナー、覚せい剤は神経や精神をむしばむ薬。子供に麻薬を使わせて暴力団へ引き込んだり、警察の目をごまかすために取引に使ったりするなどの行為から、子供を守らなくてはなりません。
戦争に巻き込まないで 第38条
戦争によって子供たちは大きな犠牲を受けます。それまで持っていたすべてを奪われ、ひとりぽっちになってしまうこともあります。今、世界では、20万人の子供たちが兵隊にされていると言われています。戦争そのものをなくさなくてはなりません。
子供を裁くときは丁寧に 第40条
子供が裁かれる場合、しっかりした保護をつけないと無実の罪に陥れられる可能性があります。また、有罪になっても社会復帰できるよう援助が必要です。
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子供の権利を尊重するには大人の意識改革が必要
富士市に住む子供たちの権利を守るために、大人たちはこれからどうすればよいのか、富士市民生児童委員の児童母子福祉部会会長、長谷川 汎(ひろし)さんにお話を伺いました。
長谷川汎(ひろし)さん(津田町)
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民生児童委員として今まで子供の問題にも取り組んできましたが、以前は非行や登校拒否などが大半でした。それらは家庭環境や貧しさが大きな原因でしたが、最近は児童問題の内容も複雑になってきています。多分、子供たちを取り囲む環境が複雑になっているからでしょう。
時代が複雑に変化していく中で、子供に対する私たち大人の考え方も変化しなくてはいけません。子供の権利を守り、子供の主体性を尊重していくためには、大人自身の意識改革が必要だと思います。
大人は自分の価値観が絶対だと思っています。そのため、子供を自分の枠(価値観)にはめようとするのです。子供ならではの価値観というものを大切にしてあげてください。
また、子供の本当の能力を見きわめ、伸ばしてあげてください。受験戦争に勝ち、一流企業へ就職することが、子供にとっての本当の幸せなのでしょうか。多くの遊びの中で、子供はかけがえのない友情をはぐくみ、人への思いやりを知るのです。
子供の権利についての本
●WHAT'S?「国連」子どもの権利条約
国連「子どもの権利条約」批准促進国民運動実行委員会編(労働旬報社 310円)
●こどものけんり「子どもの権利条約」子ども語訳
名取弘文・文(佑学杜 絶版)
●生徒人権手帳
平野裕二・苫米地真理・藤井誠二編書(三一書房 800円)