春山川上流
スケッチ画と文
新興美術院富士支部
小林スミ代さん
富士市中野490-223
春山川は、浮島町の中ほどを流れています。
子供のころは夏の間中、私たちを楽しく遊ばせてくれる川でしたが、一方で、赤子を背負った若い母親が濁流となった川にのまれた出来事を、繰り返し大人から聞かされていました。水浴びしたがけの上にも、牛車もろとも落下した農夫の碑が、ひっそりと木立に囲まれるように建っていました。
中学生になると、家族の本をそっと持ち出して上流の尾根に登り、草の上に寝ころんで大人の詩を幾つも暗唱したりして、退屈を知らずに過ごしたものでした。今思えば、自然は過酷な分だけやさしかったのかもしれません。
昭和37年、我が家は新幹線の高架の下に埋もれました。春がめぐるたび、一面にネジ花が群生した尾根が今もあるかどうか確信はできないけれど、バイパスを東に向かうときの私の目は、いつも変わらぬ愛鷹山の緑の樹海に引き寄せられていきます。
- 図表あり -
( 図表説明 ) 地図
- 写真あり -