教育や文化活動に貢献した人に贈られる、「富士市教育文化奨励賞」の受賞者が決まりました。
ことしの受賞者は、絵画の渡辺信明さん、邦楽の土屋洋子さん、音楽の辻村典枝さん、学術の渡辺弘子さん、郷土芸能のかりがね護所太鼓保存会の皆さんです。自分を表現する方法はそれぞれ違っても、心を満たしてくれる、自分の生き方を見つけた皆さんから、お話を伺いました。
自分を見詰めながら
学術 渡辺弘子(ひろこ)さん 中里
- 写真あり -
( 写真説明 ) 1951年生まれ。昭和女子大学文学部卒。88年、92年に、富士市教育実践論文最優秀賞受賞。現在市立須津中学校教諭。生徒たちへの熱心な作文指導で、数々の賞に輝く実績を持つ。
中学校で生徒たちに、国語の授業だけでなく、文芸部でも作文指導をしています。テ−マは自由。資料集めは、読書、新聞、ビデオ、美術館見学など。中学時代は、感じる心がいっぱいある年ごろだから、それを表現させます。
作文は、生きる力を身につけることです。自分をしっかり見詰め、ただひたすら書く。苦しさと対しながら書く。そこから何かがわかってくる。この、何がわかってきたかが大切で、ここから苦しみや悲しみを乗り越える力、自分を変えていく力がついてきます。こういった意味では、運動部も文化部も一緒です。
今まで、たくさんの賞をいただきました。でも、生徒に言います。てんぐになってはいけないと。さまざまな人の支えがあって、作文が書けるんだからと。これからは、この土地の子供にしか書けないものを書いていってほしい。そして、住んでいる土地に誇りを持ってほしいと思っています。
体裁よりも正直に
絵画 渡辺信明(のぶはる)さん 五貫島
- 写真あり -
( 写真説明 ) 1937年生まれ。58年、元静岡大学教授・森正一氏に油彩画を師事。65年、68年、70年に、日展入選。そのほか、富嶽ビエンナーレ展2回入選。現在成人学校講師として美術振興に貢献。
僕の描くものは、油絵の風景画。自然をテーマにしています。きれいな絵だとかけなくて、人が見ないようなところ、例えば堤や水門の一角をかいています。だから、「よく絵になるなあ」って言われますね。色も暗いかな。性格は明るいのに(笑)。
絵は自分の構図に、自分の感動を盛り込むもの。だから、目に見えないものをかき足したり、省略していくものもあったり。そうしなければ、写真と一緒になってしまう。また、形にばかりとらわれてしまうと、内面も見えなくなってしまう。物を見るときは、正直に体裁をつけないでかく。そうしているうちに、見方がだんだん確かなものになってくるのだと思う。
成人学校で講師をしていますが、生徒のいいところを褒めて個性を伸ばしてやりたい。デッサンのときには、自分の判断で正直にかくことが大切だと話します。重さや空間を表現するのも大切。僕は、うまい絵ではなく、よい絵がかけるようになりたいと思いますね。
糸の音が私の感情
邦楽 土屋洋子さん(雅遊(がゆう)) 上横割
- 写真あり -
( 写真説明 ) 1942年生まれ。正派音楽院本科音楽科、NHK邦楽技能者育成会卒。76年に、正派邦楽会の大師範となる。現在富士市三曲協会副会長。筝教授として、後進の指導育成に励む。
母親が(筝)好きで、6歳から習い始めました。嫌いでね。迷惑だったんですよ。小学校までは嫌いだったけれど、一人っ子で、これで生きていこうと決めてから熱心になりました。東京で、いい教育を受けました。理論を踏まえた演奏家を育てるといった方針で、随分勉強になりました。
結婚で富士に移りました。家のことが第一。家庭を最優先させ、その中で自分を生かせる道をと考えました。芸道は日々精進。途中で手を抜くと、もうだめになってしまいます。子育ての最中も、とぎれることなく細く長く続けてきました。28年続けてこられたのは、主人のおかげ。
筝は、自分を表現できる場です。糸の音が表現の場。若いときは、高度のテクニックを必要とする曲を選んで弾いていました。年とともに曲に対する思いが深くなって、年齢に応じた理解ができるようになりましたね。感情を糸に託し、自分を表現できる場があるのは、とても楽しいこと。
音の心を教えたい
音楽 辻村典枝(のりえ)さん 津田町
- 写真あり -
( 写真説明 ) 1943年生まれ。東邦音楽大学声楽科卒。68年に、フジ・ゾリスデン設立。74年、富士市少年少女合唱団指揮者に就任。現在文化連盟常任理事。音楽を通しての社会教育実践中。
小学生のときでした。「ウィーン少年合唱団」が、初めて日本にやってきました。ラジオで公演を聞いて、クラブの先生に約束したんです。「私も、絶対にこういう合唱団をつくりたい」って。小学生のときに(笑)。こうして夢がかなったのは、親の理解と、本物の音楽を教えてくれる、いい先生にめぐり会えたからでしょう。
指揮者として、「富士市少年少女合唱団」の子供たちを教えていますが、最初は曲よりも何回も詩を読ませます。詩の心を読み取ることができれば、フォルテとかピアノとか強弱がわからなくても、自分の感性で詩の表現ができますから。音にも、心があると思います。子供たちは、「この和音は、難しいからできないだろうな」と思っても、やり遂げてしまいます。可能性をいっぱい持っていて、とても楽しい。
栄養と休養は、音楽に携わる人にも必要です。体や心をほぐして、ずっと続けたいと思います。
郷土の歴史を伝える
郷土芸能 かりがね護所太鼓保存会 松岡
- 写真あり -
( 写真説明 ) 1976年、かりがね護所太鼓同好会発足。市内の祭りには定例的に参加。88年、サンフランシスコ桜まつりへ参加。92年には、ふるさとこどもフェスタ参加など、積極的に活動中。
かりがね護所太鼓の同好会が発足したのは、18年前。和太鼓の演奏を通して、かりがね堤を完成させた古郡家三代にわたる歴史や郷土愛を、子供たちにも伝えていけたらと考えたからです。
昔、富士川の激流はたびたび洪水となって、農民たちが苦労して耕した田畑を、一夜のうちに流し去ってしまいました。中里の豪族・古郡孫太夫は、堤防によってこれを防ごうとしましたが、工事が完成しないうちに何度も洪水によって破壊されてしまいます。孫太夫の志は三代まで受け継がれ、やっと58年後に完成しました。この間、あまりの難工事に人柱を立てるなど、悲しい歴史も秘められているのです。
かりがね太鼓は、こうした地域文化の掘り起こしにも一役買っているのだと自負しています。幸い昨年は県の代表として、文化庁後援の「ふるさとこども芸能フェスタ」に出演できました。今後も太鼓の演奏に研究を重ね、ますます活動の幅を広げたいと思っています。