【広報ふじ平成3年】エントツを日本一生かしたまちづくり
5メートル以上のエントツ365本
昨年、県から市町村に「世界に誇れる日本一住みやすい“ふじの国づくり”を進めましょう」との呼びかけがありました。これに応え、29市町村が応募しましたが、サッカーやサクラエビなどよいところをさらに伸ばそうという計画がほとんどでした。本市は、ともするとじゃまもの扱いされてきたエントツを逆に生かしてみようと、「エントツを日本一生かしたまちづくり」をテーマに選びました。
昨年11月に「エントツ文化懇談会」をつくり、話し合いを進めながらエントツの生かし方を研究してきましたが、このほど調査研究がまとまりましたのでお知らせします。
エントツの高さと本数
市内に近代製紙工業が興り、エントツが建ち始めてから約100年。現在市内にある、高さ5メートル以上のエントツは365本。本数・分布状況ともに、日本有数のエントツ都市であることは、間違いありません。
100メートル以上のエントツは、4本ありますが、1番高いのは、旭化成の124メートルです。また、赤白に塗られている60メートル以上のエントツは、27本あります。
富士市のエントツはなに型?
エントツと言うと、皆さんはどのようなエントツを思い浮かべますか。工業都市富士市では、当然製紙工場などにある、たくさんのエントツだと思います。しかし、都市によっては、ふろ屋、清掃工場など、ぽつんと建った1本だけ、ということもあります。
このように、エントツは都市によって数や分布に違いがあり、幾つかの型に分けられると思います。
1、シンボル型…………大きなエントツが1本から2本ある(世田谷、練馬 光ヶ丘など)
2、オバケエントツ型…数本のエントツがあり、見る方向によって本数が変わる(川崎、釜石など)
3、群エントツ型………中・小のエントツが分散し、林立している本市は、鋳物のまち川口市などと同じように、群エントツ型に入ります。
新しい発想で
私たちにとって、エントツとは一体なんでしょうか。生活を支える労働の場、生産・発展のシンボル、公害の発生源など、人や時代によって見方は違っていますが、最近はあまり好まれていないようです。
そこで、じゃまものを逆に生かそうという発想が生まれました。
「好き」と言われるエントツに
東京の世田谷区は、昭和61年、砧(きぬた)公園の敷地内に美術館をつくりました。しかし、すぐ隣にある都立の清掃工場の赤白エントツとの調和が、よくありませんでした。そんな折、清掃工場のエントツを建てかえることがわかり、区は都に相談し、新しいエントツの色彩デザインを、公園や美術館と調和したものにすることになりました。
デザインは、全国から公募しましたが、地元の幼稚園児などからも多数の応募があり、総数は1,000点を超えました。そして完成後は、公園や美術館ともよく調和し、地域のシンボルや目印にもなっています。また清掃工場の職員も、「ここがお父さんの働いているところだ」と、子供に自慢するようになったそうです。
この計画を進めた世田谷区都市デザイン室の原さんは、「区民や全国の皆さんにPRし、理解と意見をいただいたこと。エントツの数が少なく、シンボル・目印として使えたことが成功の鍵です。富士市はたくさんのエントツがあるので、世田谷のまねをしてもだめだと思います。市民の皆さんと一緒にまちづくりの一環として、時間をかけてエントツ群のデザインを考えていくことが必要です」と話してくれました。エントツ群のデザインは、全国に例がありません。
- 図表あり -
( 図表説明 ) 30メートル以上のエントツ分布図
- 写真あり -
( 写真説明 ) 世界で初めて色を塗った顔料会社(東京)のエントツ
( 写真説明 ) 世田谷美術館と空に溶け込むような清掃工場のエントツ
エントツさん なにが言いたい?
エントツ文化懇談会
市は昨年の11月、「エントツを日本一生かしたまちづくり」に向けて、エントツのある企業や市民14人で「エントツ文化懇談会」をつくりました。
話し合いや他都市の視察の中で、エントツに親しむ方法など、いろいろな意見が出され、調査報告としてまとめられましたが、ここで、懇談会参加者の内から、4人の方にお話しをお聞きしました。
川口宗敏さん(東海大学助教授)
- 写真あり -
懇談会の座長として参加させていただきましたが、初めは少しとまどいましたね。不粋なエントツと文化、どう結び付くのかと。でも、よく考えてみると、チャールスディケンズの小説「クリスマス・キャロル」にもエントツが登場するように、文化的にも無縁というわけでもないんです。
しかし、富士市のエントツは非常に数が多い。この数をどう生かすか、また風景の中で、富士山とエントツを対で考える必要があると思います。大勢の人がエントツに関心を持てば、企業も考えるようになりますよ。これからは、エントツを地域の文化に育てるよ
うな、地道な事業が求められる時代となるでしょう。
鈴木基之さん(丸金製紙社長)
- 写真あり -
懇談会ではエントツについて、随分考えました。実は、以前はほとんど考えたことがなかったんです。私のところでは、公害対策のためのボイラーの共同化で、10社のエントツを1本にしました。今、ボイラーの小型化が進んでいますし、熱効率を考えると、将来はエントツがいらない時代が来ることも考えられますね。
365本、ごろがいいですが、無用のエントツはなくす必要があると思います。またエントツに太陽電池や風車などを付けて発電し、地域に電気を供給するとかして、市民の皆さんに存在権を認めてもらえるようになればいいですね。最終的には文化遺産になるんでしょうか。
白神義朗さん(旭化成工業事務部長)
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会社には、市内で1番高い124メートルのエントツがあります。企業としては、エントツが公害問題などで市民と対立するのではなく、親しみの対象となると大変ありがたいですね。そのためには、エントツ観察会などで皆さんに関心を持っていただくとか。しかし、たくさんのエントツを考えると、富士山を背景にした街並に溶け込むようなエントツづくりが基本だと思っています。また、道添いに工場の塀が長く続く暗い道も多いので、エントツを街灯がわりに使うなど、役に立つエントツもいいと思いますね。
全体の計画がしっかり決まれは、会社としても協力できると思います。
小沢昇司さん(屋外広告業)
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エントツは、単に工作物として見ると、じゃまで味けないけど、名前を付けて生き物として見ると、個性があって非常におもしろいですね。それと、エントツのある工場で働き、生計を立てていることを考えると、エントツに感謝し、愛情を持って目を向けることも必要。そんなことでも、エントツの見方が変わってくるんじゃあないですか。
林立するエントツの対応は難しいと思うけど、地域を分けて、丸、三角、四角にするとか、東西南北の1本ずつだけ違う色に塗り、目印にしてもいいかな。展望台のあるガラスのエントツをつくるのが僕の夢なんです。
20年先のエントツ文化都市を目指して
気長に気長に
エントツ文化懇談会の意見を中心にまとめられた調査研究報告書(県のアドバイザーがまとめた)には、「エントツ文化都市」を目指すための計画案が盛り込まれています。案は、初・中・長期の3段階に分かれ、20年という息の長いもので、最終的には、エントツ財団の設立を目指します。
初期計画(1年〜5年)
まず、エントツへの関心を高め、親しみを持てるような企画が考えられています。
◎エントツ名簿の制作
エントツを擬人化し、住所・年齢・身長などを入れます。社会科の勉強にも使えるかも。
◎エントツ写真の収集
「富土市のエントツ今昔」「富士山とエントツ」「日本各地の有名・おもしろエントツ」などを集め、展示します。市内にも、おもしろエントツがあるかもね。
◎写真コンテスト
写真イコール芸術。エントツと富士山など、芸術写真を大募集。
◎エントツカレンダーの制作
365本のエントツにちなみ、カレンダーをつくります。その中に365の利活用アイディアを盛り込みます。もちろんアイディアは、皆さんから募集の予定。
◎エントツ文化シンポジウムの開催(ことしの11月中旬を予定)
「エントツは文化となり得るか」をテーマに、全国の工業都市やエントツを抱えている企業などに呼びかけます。これは、本市から全国へ向けての問題提起となります。
このように、いろいろな計画案がありますが、これを進めるためには、推進のための組織が必要です。そこで、市民・企業・行政が参加した「エントツ文化研究会」などをつくることができればと考えています。
また、具体的なエントツへのアプローチとしては、改築や塗りかえのとき、周囲に合った色にするなどの、モデル実験をしたいという夢もあります。
中期計画(5年〜10年後)
初期計画の中でつくり上げた成果をもとに、活動の拡大や情報の蓄積を行う予定です。
◎エントツ学会の設置
エントツ文化研究会の活動成果などを生かし、より専門的な立場から各種研究や情報交流を行います。
◎全国エントツ文化都市連絡協議会の設置
シンポジウムに参加した都市などと連絡を密にし、地方の活動を全国へ、世界へと広げていきます。
長期計画(10年〜20年後)
たくさんのエントツを、どうするか、いよいよ決まる時期です。
◎エントツ財団の設立
エントツ文化活動を、総括的に行うための組織です。
◎エントツ市民事務局の設置
市民が自由にエントツ文化活動を企画・運営する拠点とします。
20年後の「エントツ文化都市・富士」を目指し、これから活動が始まろうとしています。しかしエントツのほとんどが企業の持ち物。市民の皆さんを初め、企業の協力なしには、進めることができません。
遊び心を持って、ご提言、ご意見をお寄せください。
問い合わせやご意見は 企画課 内線2836
- 写真あり -
( 写真説明 ) 芸術写真になり得るか
( 写真説明 ) 松林越しのエントツ群
添付ファイル
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広報広聴課 (市庁舎8階北側)
電話:0545-55-2700 ファクス:0545-51-1456
メールアドレス:kouhou@div.city.fuji.shizuoka.jp