市が昭和63年4月から、自然環境の保全を前提に策定を進めてきた「富士・愛鷹山麓地域環境管理計画」の素案がまとまりました。
計画は、環境のあるべき姿を「自然・風景と人間との共生」とした上で、「四季を彩る自然林の保全と創造」「歴史を語る富士美林の形成」「きれいで豊富な地下水の確保」「動植物の生息する豊かな環境の保全」「自然の節度ある利用」「日本人の心のふるさとである富士・愛鷹自然風景の保全」を基本指針としています。
今回は、計画素案の概要をお知らせします。
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( 図表説明 ) 計画対象区域の概要図
計画対象面積は約6,800ヘクタール
計画対象区域は、県道元吉原大淵富士宮線と東名高速道路を結んだ北側に当たります。また、面積は、自然公園法などで保護されている区域を除いた6,800ヘクタールで、市域の約三分の一になります。
現在この区域の約74%は、ヒノキを中心にした森林です。また、茶などの農耕地、約1万2,000人が住む住宅地、3か所のゴルフ場などに利用されています。
地形は、比較的単調で、なだらかな斜面が広がり、安定した地域と言えます。しかし、どこまで開発してもよいかが問題です。
森林なくして富士市なし
では私たちは、5,040ヘクタールの森林を含む6,800ヘクタールの計画対象区域を、どのように考えればよいのでしょうか。
それには、富士・愛鷹山ろくの森林の働きを考える必要があると思います。森林は、地下水の供給、二酸化炭素の吸収、酸素の放出、空気の浄化など、私たちの日常生活と強く結びついているからです。
◆森林は富士市の水がめ
富士市では、1日に99万トンの地下水を使っています。生活用水として12万トン、工業用水などとして87万トンです。
この地下水は、どこからくるのでしょうか。その多くは、富士・愛鷹山ろくに降った雨が源です。森林に降る雨は、葉や幹で勢いが弱まり、地中に蓄えられ、また深く浸透し地下水になります。
もし山ろくに森林がなかったら、雨は地表を流れ、地下水は減少してしまいます。富士愛鷹山ろくの森林は、富士市の水がめなのです。
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( 写真説明 ) 手入れのよいヒノキ林には日が入り、下草が生えて、土が安定します
( 写真説明 ) 手入れの悪いヒノキ林は日が入らず、下草が生えないため雨で土が流れます
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( 図表説明 ) 木の種類の違いなどによる土壌貯水能
◆二酸化炭素の吸収と酸素の放出
また森林は、地球の温暖化を進めると言われている二酸化炭素を吸収し、私たちが呼吸している酸素を放出しています。
富士市は工業都市であるため、重油などを燃焼するときに出る二酸化炭素の量は、年間530万トンで、静岡市の20倍にもなります。これに比べ、富士愛鷹山ろくの森林が吸収する量は年間32万トンといわれ、530万トンの半分が風で海に流れるとしても、残りを森林に吸収させるためには、現在の約8.3倍の森林が必要です。
また、富士・愛鷹山ろくの森林が放出する酸素の量は、年間22万トンといわれ、約80万人分の酸素を供給しています。しかし、重油などを燃すときに使う酸素の量は、約360万トンで、現在の16倍の森林がなければ供給できません。
◆空気の浄化
富士市の大気汚染も、法律による規制や企業努力によって改善されてきましたが、森林による浄化作用も忘れてはなりません。
大気の汚染物質は、硫黄酸化物、窒素酸化物、ばいじん、一酸化炭素などがありますが、これらの多くは、植物や土などの表面で除去されます。特に、森林による空気浄化機能は重要で、ガス状の汚染物質は呼吸のときに、ちり状の汚染物質は葉・枝・幹などにくっついて除去されます。
このように、富士市のような工業地域周辺の森林は、大気汚染防止に大変大きな役割りを果たしているといえます。
◆気象条件の緩和
昭和62年9月1日の午前9時30分に、アメリカの資源探査衛星ランドサットが、富士市の温度分布を観測しました。そのデータには、市街地に高温域、富士・愛鷹山ろくの森林部に低温域の広がる様子がはっきりと表われていました。森林は、気温、湿度などの気象条件を緩和する力があります。
森林の機能を高める
計画対象区域には、ヒノキなどの植林が4,720ヘクタール、自然林が320ヘクタールあります。
自然林は、神社の森や雑木林、渓畔林(けいはんりん)として残されています。動植物の種類が多く、森林としての機能の高い自然林は、適正に保全・復元・拡大していかなければなりません。
ヒノキなどの植林の中には、管理が悪く森林機能の低い林もあります。枝打ち、間伐など適正な管理により、機能を高めていきます。また、新たな植林に際しては、広葉樹との混交林方式の採用を進め、より機能の高い森林づくりを進めます。
森林の機能を高めることは、六つの基本指針の内、自然の節度ある利用を除く、五つの指針に沿った施策です。
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( 写真説明 ) 広葉樹とヒノキの混交林
土地利用は必要最少限に
21世紀は高齢化、情報化、国際化が進むなかで、生活の質が問われる時代になるといわれています。生活の質の要素とは、安全・健康、環境の快適性、人間的ふれあい・いきがいなどではないでしょうか。
この計画では、21世紀の市民生活の質の向上を目的に、森林機能や風景などに配慮しながら、森林を伐開するような開発を、最大でも250ヘクタールに考えています。また土地利用の計画期間は、10年をめどとしています。
まちづくりの基盤整備のために
まちづくりの基盤整備のためには、次のような開発を想定します。
1.道路など…40ヘクタール程度
2.頭脳集積センター、工業団地など…60ヘクタール程度
3.高次教育機関…20ヘクタール程度
4.公園・霊園など…20ヘクタール程度
5.住宅…15ヘクタール程度
6.産業廃棄物処理…20ヘクタール程度、
これで175ヘクタールになります。
富士・愛鷹自然学域構想で生活の質を向上
残りの75ヘクタールは、研究、文化・教養、娯楽・スポーツという三つの機能を持つ、自然学域として整備を考えています。
◆産業の活性化を目指す研究施設
今後とも、富土市が工業都市として発展するためには、産業の活性化と質的強化が大切だと考えられています。そこで、民間研究施設を中心に、労働力の質的向上のための総合的な研修センターなどの整備が考えられます。
◆生涯学習の場となる文化施設
二つ目は「見る」「聴く」「学ぶ・つくる」という文化的な構想です。富士山を舞台にした演劇祭野外音楽祭、また富士山をモチーフにした美術の創造など、新たな文化活動の拠点として整備することが必要です。
また、市民の創作活動も、これらの施設を使用して行われます。
◆アウトドア・ライフのための施設
市民のアウトドア・ライフと一番深いかかわりを持っているのは、休養・娯楽・運動施設です。
丸火自然公図を中心に、多様な日然を利用した自然博物館的な整備が考えられます。また、市民の要望に答え、各種スポーツ施設も組み込まれます。
富士市の、日本の、世界の富士・愛鷹に
調査研究、公開セミナー、政策シンポジウムなど、専門家や市民のみなさんの知恵を借りながら、3年をかけてこの管理計画(素案)ができました。富士・愛鷹山ろくは、富士市の、日本の、世界のシンボルであるともに、富士市の生命線といえます。そしてこれを適正な状態で次代に継続していくことは、私たちの義務であり、責任でもあります。計画はこれから詰めの段階に入りますが、一層の御協力をお願いします。
環境管理計画についての問い合わせ 環境管理対策室 内線2676