人身事故1,863件、死者21人、負傷者2,193人――これが、富士市における昨年の交通事故の実態です。死者21人のうち12人が30歳以下という痛ましさでした。
全国的にも死者が一万人を超え、昭和40年代の交通戦争と呼ばれた時期に匹敵する状態で、第二次交通戦争という言葉が生まれています。
そこで今回は、富士市の交通事故の実態、対策について、神谷3丁目の主婦伊東栄子さんをレポーター役に、吉村隆警察署交通課長、鈴木知美市交通安全指導員会会長、台保彦市総務課長の皆さんにお集まりいただき、座談会を開きました。
座談会出席者
富士警察署交通課長 吉村 隆さん(富士見台)
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昭和63年3月に静岡南署から富士署へ。静岡と比べてどうですかとの問いに「運転マナーが悪いですね。市民の皆さんの主な交通手段が車ということもありますが、飲酒運転の多さには驚きました」と率直な感想。今回は積極的に協力してくれました。
富士市交通安全指導員会会長 鈴木知美さん(柚木)
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富士市の交通指導員125人の代表者。「熱心に街頭で指導していると、あの人はかなりもらっているんだろうと言われたりしてね。私たちはボランティアなのに」と鈴木さん。第一線で活躍しているだけあって、体騒に即した話をしてくれました。
富士市役所総務課長 台(うてな)保彦さん(伝法)
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台課長には、今、気がかりなことがあります。市が昭和42年から行っている市民交通傷害保険のこと。「恐ろしい交通事故の補償は、市民みんなの力でと始めたものですが、最近加入者が減っています。保険料は年間一口600円。ぜひ御家族で加入を」とアピール。
レポーター 伊東栄子さん(神谷3・主婦)
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「世の中気ぜわしく過ぎるから、つい運転が荒っぽくなるんじゃないかしら」と語る伊東さん。りすさんクラブ須津地区代表者を務めているだけあって、交通安全には関心があります。今回は、「レポーターなんてできません」と言うのを無理にお願いしました。
発生件数は史上最悪
伊東
皆さんこんにちは、どうぞよろしくお願いします。
一同
よろしくお願いします。
伊東
早速ですが、吉村交通課長さん、昨年は交通事故が大変多かったと聞いていますが、どんな状況でしたか。
吉村
そうですね。富士市で起きた交通事故は、人身事故で1,863件、前年に比べて201件の増加となりました。
伊東
201件もですか。
吉村
死者は21人で3人、傷者は2,193人で223人の増加でした。人身事故でいえば、県下が前年比7%台の増加なのに、富士市は12%台と大幅な増加になっています。発生件数と負傷者の数は、富士市の史上最高ですね。死者は過去10年間で、ワースト3位になっています。
伊東
まあ、すごいですね。
吉村
死者の数は昭和45年の56人をピークに下がってきていたんですが、また去年あたりからふえ始めたんですよ。
伊東
そうですか。
吉村
そして、交通事故の内容を見ますと、車両対車両の事故が1,863件のうち1,607件で86.3%を占めています。
- 図表あり -
( 図表説明 ) 事故件数 (1月1日〜12月31日)
交通マナーのよいのは小学生だけ?
伊東
これはどういうことでしょうか。
吉村
まあ、一番の原因は、車がふえた、免許人口がふえたということでしょうね。車は、昔は2軒から3軒に1台しかなかったのに、今じゃ1軒に2台あることも珍しくないでしょう。
伊東
一人1台って感じですね。交通現場の第一線で活躍されている鈴木さん、車が増えたということを実感として感じられますか。
鈴木
そうですね。街頭へ出ると車がふえ、運転マナーが悪くなっているなと肌で感じますね。
伊東
マナーが悪いというのは年齢的なものもあるんでしょうか。
鈴木
年齢というより全般的によくないですね。交通マナーがよいのは小学生だけでしょうね。
伊東
まあ、そうですか。どんなことが目につきますか。
鈴木
交差点に立ちますと、信号無視など多いですし、弱者優先といっても、右左折などで気遣いがなされていませんね。
伊東
思いやりがないということですか。
鈴木
そうですね。
伊東
この辺では、信号が黄色に変わると、車はスピードを余計出すなんてことがありますものね。けさも来る途中、信号が変わっているのに発進する車が随分目立ちました。
吉村
見込発進ですね。
鈴木
ですから、事故の発生場所も、交差点あるいはその付近というものが、夏の交通安全運動のときは全体の発生件数の72%ありました。
ふえるヤング事故
伊東
事故の特徴として年代的なものはありますか。
吉村
特にいえるのは、ヤング(25歳末満)と初心者の事故がふえていることです。まあ、初心者にはヤングも多いですがね。ヤングの事故は640件で、全体の三分の一になります。
伊東
はい。
吉村
そして、ヤングの事故は、スピードの出し過ぎ、信号無視、一時停止違反などの原因が多いのですが、単一的な原因は少ないんです。スピードの出し過ぎに信号無視とか原因の重なっていることが多く、大きな事故につながるというのが実情です。
伊東
小さい事故も大きくなってしまうのですね。
吉村
それからヤングは運転技術が未熟な割りに、自分の運転を過信するんです。センターラインオーバーなどは、いい例でしょうね。
伊東
いつの時代でも若い人はそういう傾向があるかしらと思うのですが、特に最近ふえているのは特別に何かあるのでしょうか。
吉村
若い人の免許人口がふえていることと、若い人がすぐ車を持てる社会状況ですね。若い人の方が皆さんよりいい車に乗っているでしょう。
伊東
そうですね。(笑)
- 図表あり -
( 図表説明 ) 平成元年の死亡事故発生状況
大切な交通安全教育
台
年代的な特徴のことですが最近の死亡事故に幼児は入っていません。これは教育が徹底しているからと思います。一方、ヤングや高齢者の交通安全教育は、まだ始まったばかりなんですよ。
伊東
りすさんクラブなど交通安全教育を受けた子供たちが、免許をとる時代になって、モラルとか思いやりとかを持ったまま免許をとれればいいのですが…。
吉村
そうですね。でも中学・高校へ行くと交通安全教室の機会は減ってしまうので、その辺は課題かもしれません。
台
あとは、免許人口の高齢化。お年寄りはこれまで交通弱者とされてきましたが、加害者的立場に変わってきています。
ふえる高校生の事故
伊東
高校生の事故もふえているようですが、鈴木さんたちが街頭にいて、いかがですか。
鈴木
中・高生が事故にかかわる数は多くありませんが、目にあまる行為は多いですね。
伊東
そうしますと、指導員さん方が、一番指導しがいがあるということですか。(笑)
吉村
高校生のことはいろんな場で言われますよ。自転車の無灯火・並進・みんなで渡れば怖くない式の信号無視などね。
伊東
市役所にもそういう話が来ますか。
台
きますよ。高校生に限らず子供もお年寄りも「自転車も乗れば車の仲間入り」という意識を持つことが大切ですね。
- 写真あり -
( 写真説明 ) 高校生の皆さん心当たりは?
地域ぐるみで運動を
伊東
最近の状態から、第二次交通戦争という言葉が生まれているようですが、何かよい手だてはないのでしょうか。
鈴木
昭和40年代後半の第一次交通戦争が終結できたのは、安全施設の整備のためと思うのです。そして、現在、第二次交通戦争と言われることの背景には、これまでのお話のとおり、いろいろ原因があると思いますが、交通モラルの低下・運転マナーの悪さということが立ちはだかっています。
伊東
そう思いますね。
鈴木
このモラル・マナーの向上というのは、なかなか難しいことですね。本来、地域や家庭でやらなけれはならないことも含まれているのですから…。
伊東
思いやりや優しさというような心の問題にもなりますね。
鈴木
そうなんです。一番大事なことは、地域・家庭からのマナーの向上ですね。私の住んでいる富士駅北地区では、地域ぐるみで交通安全運動をして、成果を上げてましたよ。
吉村
先ほど、交差点での事故が多いという話が出ましたが、交差点対策には信号機の設置が一番です。でも、信号機は設置できない交差点もあるので、最近は夜、交差点の中央ででピカピカ光る中心鋲(びょう)も多くつけています。
- 写真あり -
( 写真説明 ) 2月23日、源平橋で交通事故ゼロ67日キャンペーンが行われました
安全運転を自発的に
伊東
ほかにはいかかでしょうか。
鈴木
思いやりと譲り合ういの心を醸し出させるようなものを考えなければ、だめですよ。今は、安全運転意識の向上のために、ティッシュや花の種などを配って、一つの手段としていますが、むしろ、安全は自分で買うんだぐらいの意識が必要ですね。ですから、道を譲ってもらったら、そのいただいた気持ちをほかの人にも返そうというような運動を起こせたらと思っています。例えば、赤い羽根のような物をミラーにつけて「私たちはそういう運動を実行するよ」という意思表示をするとかね…。
伊東
交通安全を受け身的な物から自発的な活動にするんですね。台さんはいかがですか。
身近なリーダー養成を
台
市でも道路交通環境の整備から交通安全思想の普及まで、いろいろなことをしています。中でも交通安全教育はとても大切なことだと思います。交通安全母の会やりすさんクラブ、お年寄りの会など、いろんな分野で交通安全の身近なりーダーをつくることか交通事故の減少につながりますね。
伊東
交通安全を身近に感じられますね。吉村さんどうですか。
自分の命は自分で守る
吉村
各人が自分の命は自分で守るんだという認識をしっかりもってほしいですね。そうすれば、マナーは上がり、ルールは守られると思います。
伊東
大切なことですね。
台
いずれにしても、私たちは日常生活の中で車に頼る部分は、これからまだまだ増していくと思います。富士市は昭和42年に交通安全都市を宣言していますので、それに恥じないように、市民総ぐるみで交通事故防止に取り組んでいきたいと思います。
伊東
きょうは、どうもありがとうございました。
レポートを終えて
もっと関心を持って
伊東栄子さん
- 写真あり -
交通事故は遭わなけれは全く関係のないことのようですが、一歩誤ると、だれでもが被害者や加害者になる可能性があります。ですから、市民一人ひとりがもっと関心を持って、自分さえよければよいという考えを改めるべきだと感じました。
平成元年交通事故マップ
写真の中の点が事故発生地点、主要道路の交差点に多いことがわかります。
最近事故の多い交差点 - 写真あり -
( 写真説明 ) 商工会議所北東
( 写真説明 ) 国一バイパス靖国
りすさんクラブへ入りませんか
りすさんクラブは、お母さんとその子供(3歳〜小学校入学まで)が、ゲームや遊びを通して交通の勉強を一緒にする楽しい組識です。
・本当の名前 「富士市幼児交通安全クラブ」といいます。
・何のために お子さんを交通事故から守るため
・何してる 4月「右側通行」、5月「正しい横断の仕方」など1年間を通して活動しています。現在、市内に111クラブ・5,500人の仲間がいます。
・問い合わせ 市総務課電話51-0123 内線2768か、富士瞥察署婦人交通指導員電話52-2543 内線329へ。