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【広報ふじ平成元年】富士・愛鷹山麓の政策シンポジウム 自然環境の保全を理念に土地利用を

 市は、富士・愛鷹山麓の優れた自然を守りながら、土地利用などに望ましい地域環境のあり方を定める「富士・愛鷹山麓地域環境管理計画」の策定を進めています。
 これまで、策定に向けて富士・愛鷹山麓に関する総合的な調査研究を行ってきました。9月30日には、吉原市民会館でこの地域の保全と利用のあり方を考える政策シンポジウムが行われ、約700人の皆さんが参加しました。今回は、このシンポジウムの概要を皆さんに紹介します。

シンポジウム参加者
・近田(こんた)文弘氏 静岡大学理学部助教授
・阿部孝夫氏 市町村アカデミー教授
・松田義幸氏 筑波大学体育科学系助教授
・若林淳之(あつし)氏 静岡学園短期大学学長
・内田芳明氏 中部大学国際関係学部数授
・渡辺彦太郎 富士市長

富士・愛鷹山麓の抱える問題

●司会 中山芳明氏  市立今泉小学校校長
中山芳明氏
- 写真あり -

司会
 市は既に富士・愛鷹山麓地域自然環境調査研究を行ってきました。調査研究委員長の近田先生から、その説明をお願いします。

重度開発の容量の目安は250ヘクタール
近田文弘氏
- 写真あり -

◎総合的に分析を行う
近田
 私どもは自然環境をきちんと押さえ、景観や社会的・経済的な環境も加えて分析を行ってまいりました。基本的には自然科学という立場から考えて、富士山麓をどの程度まで利用することがいいのかということを考えてまいりました。当初、開発許容量、どこまでなら開発できるかという限界が求められないかという発想を持ちましたが、たび重なる検討の結果それは難しく、委員会としては「この程度が一つの目安であろう」というようなことを考えることにしました。そこで、土地利用ということを考えた場合に、基本的な理念は市長さんも言われている自然環境の保全ということです。二番目に社会的要請に答えられるような土地利用でありたいということです。これはやっぱり市民のためになるような土地利用ということが、基本ではないかということです。それから、何よりもこの富士愛鷹山麓の自然というのは、その下に住む市民のために安全性、快適性がなくてはならないものだというように考えてきました。

◎新たな揚水は慎重に
 富士市域の地下水の限界楊水量は、日量約110万トンと考えられ、現在の場水量は工業用と一般用を合わせてちょうど110万トンです。
富士市はいろいろ努力をされて限界楊水量を超えないようにやっておりますが、基本的にはもう余裕がありません。ですから、地下水を失う量はなるべく押さえこんだ方がよく、日量5,000トンを失うことはちょっと危険だろうと判断します。5,000トンというと、いわゆるハイテク産業立地といわれるようなものは、そのぐらい水を使うということで知られています。

◎重要な汚染問題
そして、重要な点は汚染の問題です。有機塩素系の汚染物質は自然環境の中では分解しません。ハイテク産業の一部にそうした問題が出たりしていますので重要なことです。それから農薬の問題です。ゴルフ場のような場合には農薬が環境に大きな影響力を持っているであろうと心配をしています。また、産業廃棄物の中に特別高い値ではありませんがヒ素とかカドミウムとかが存在しています。環境の問題は、一つ一つが網の目のように絡み合っていますので、いろいろな問題がお互いに影響し合うということは、考えるべきであろうと言えます。そこで私どもは、森林を伐採し、土地の改変をするような重度開発の容量の一つの目安を250ヘクタールと考えるべきではなかろうかというふうに考えています。

司会
 「環境管理計画」とはどういうものなのでしょうか。この問題を環境庁で直接手がけておりました阿部先生お願いします。


市民が将来の見通しを持つべき
阿部孝夫氏
- 写真あり -

◎快適環境の確保を
阿部
 昭和52年、日本の環境政策を再評価したOECD(経済協力開発機構)が、「日本は公害政策には成功したけれども何か一つ足りない」と言うのです。その足りないものがいわゆるアメニティー、快適環境ということです。ですから、日本が豊かになるにつれて、その環境については公害防止だけじゃなくて、そのアメニティーを確保する、そこまで含めて総合的に環境管理をする、それが非常に重要なことと言えます。環境管理とは、そういう人間の環境を快適なものとして守り、つくっていくということなのです。

◎自然を中心にした環境を
 富士市において、これから特に大事なのは、私は、自然を中心とした環境をよくすることと、文化だと思いますね。新しい時代のライフスタイルのために、そういうものが重要で、そういうものを含めた環境管理が必要になります。質の高い生活、ゆとりのある生活を楽しむということが大事なのです。それから、富士周辺は世界的にも日本の中でも大変意味のある場所でして、これは自然という意味でも文化という意味でも、いろんな面で意味があるのです。これから東京方面から、当然富士山麓を利用させてほしいという希望が殺到してまいります。そして、ゴルフをしたいとか、いろんなことをしに来ます。これについて市民がしっかりした将来の見通しを持たないと、大変なことになるだろうと思います。この辺が、富士・愛鷹山麓地域の環境管理計画をつくっていかなけれはいけない理由だと思います。

司会
 富士市の将来を見据えて環境管理計画をつくっていきましょうということでしたが、将来といいますと余暇の時代が叫ばれています。余暇研究の第一人者であります松田先生、お願いします。


だれのため開発か
松田義幸氏
- 写真あり -

◎市民にとっての自然を
松田
 これから自由時間がふえてくると、日本人は自然そして富士山ということを心のよりどころに求めてくると思うんです。そして、それに向けてリゾート開発を静岡県は進めると。これもタイムリーなことだと思うんです。ところがここで大問題は、よその人たちのためのリゾート開発は何の意味もないんですね。まず、一番大事なのは市民にとっての自然生活をまずつくること。都市生活に加えて、富士市民にとっての自然生活を充実すること。例えば、ゴルフ場というのは40万坪くらい使うわけです。そして2日にたった200人しか使えないんですね。つくって悪いというわけじゃなくて、そうしますと250ヘクタールがこれだけに取られてしまったら大変なことになるわけですね。

◎住民主導の地域開発
 世界の旅人を迎えて国際文化交流、技術交流、経済交流の域をつくっていくこともできますから、理念を高く持って、富士・愛鷹山麓の環境をどうとらえていったらいいか考えるべきです。まず、住民主導のそういう地域開発をすべきでしょう。そうなると、地域づくりは、何のことはない、富士市民の中の世界、心の中に抱いている世界ですね。それが貧困ならば俗悪なリゾート開発、いいイメージならば実際に非常にいい環境をつくっていけるわけです。そのためには学習や勉強が必要ですね。

司会
 市民のための開発であり、創造であるという視点で考えなさいという御指摘だったと思います。
さて、富士山麓に住んでいてその変化をつぶさに見てきた若林先生いかがでしょうか。

- 写真あり -
( 写真説明 ) 政策シンポジウム
( 写真説明 ) 富士山は昔から人々の生活に深くかかわっていました

人間と自然とのかかわりを考える
若林淳之氏
- 写真あり -

若林
 私は人間と自然という形において、環境問題を考えます。つまり、今ある自然そのものを保全するだけが、環境保全ではなくて、もう少し視野を広げて、例えば山ザルの住めるような環境というものをつくり出す、さらには、歴史的な遺産を生かしたものをつくり出していく、あるいは江戸時代までいた野鳥の住めるような里をつくり出していくようなことも含めて、環境をつくり出していくことが重要です。いわば、キジやサルの住めなくなるようなところに、人間がなお依然として住んでいるということ自身は、長い目で見れば決して良好な環境であるとは思えないからです。

司会
 歴史家の立場から、環境を創造しなさいという話だったと思います。内田先生は文化論とか景観論というたくさんの著書もありますが、先生の考え方をお話しください。

共同のアイデンティを
内田芳明氏
- 写真あり -

◎利害を超えた都市づくりが課題
内田
 都市という得体の知れない怪物には、多くの利害関係が働きます。たくさんの相争う利害関係の中で、風景を守るという共同歩調のとれたヨーロッパの都市は美しい。日本だってヨーロッパだって同じ利害関係の人間が生きているんですから考えなければなりません。その利害を超えて何か永遠的な絶対これを侵してはならないというものが共同のアイテンティティ(他都市とは異なる特徴・個性)になっていなければ、ヨーロッパのような都市形成はできないんです。そのへんの問題が富士市でもテーマになると思うんです。

司会
 ありがとうございました。次に具体的な構想をお話しいただきたいと思います。

今後を考える

フィールドミュージアム構想

近田
 私は、富士・愛鷹山麓は森林公園にすべきだという個人的な気持ちをもっています。ただ、森林公園と一口に言っても、ポイントがありませんので、もう少し砕いて言いますと、自然の博物館であるという、ふうに私は思っています。横文字で言いますと、フィールドミュージアムということで、自然をそのまま、丸ごと博物館にして勉強するような場をつくったらいいのではないでしょうか。

司会
 ありがとうございました。若林先生は常日ごろ「日本一の富士山なんだ、日本一のものをつくれ」と大変勇ましいことを言われていますが、日本一の構想をお願します。


コンベンションハウス構想

若林
 私は、以前テレビでアメリカのベーカー国務長官とソ連のシュワルナゼ外相が、風景のまことに美しいところで会議をしているのを見ました。こういうところで話せば、つぶれる話もまとまるのではないかという感じを持ったのです。そういう場所を日本中に求めるならば、愛鷹山系の越前岳の西のどこかにコンベンションハウス(国際的な会議などができる施設)をつくるといい。富士を見上げながらいろいろ話したならば、条約などたちまちできるのではないか。そういう意味でコンベンションハウスのようなものを、壮大なセレモニーのできる場所ができたらと…。日本一ということは、同時に世界一ということにも通ずるわけですから、そういう国際性をもった施設を考えていくことが必要ではないでしょうか。

司会
 内田先生はどんな構想をお持ちですか。


富士・愛鷹山麓芸術文化村構想

内田
 私は富士市の皆様や市が協力して、これから100年、200年たっても日本の中心の文化のセンター、あるいは世界の一つの目ぼしい場所となる…仮に名前をつけて、富士・愛鷹山鹿芸術文化村としましょう。富士山麓にゴルフ場1個分ぐらいの面積があれば相当すばらしいものがたくさんできますよ。学者村みたいな研究施設ができるでしょうし、演劇場ね。それからオペラハウスをつくったらいいですね。自然に調和したホテル、芸術館、彫刻の森などをつくって一人芸術文化村をつくつたら、皆さん心が豊かになれますね。そして、これ以上富士山を乱開発しないよう、100年たっても残る建物にしたいね。

司会
 続いて松田先生いかがでしょうか。


富士・愛鷹山麗自然学域構想

松田
 結論から申しますと、富士・愛概山麓自然学域構想ということで計画を考えてみたらどうでしょうか。都市生活と自然生活の両方を享受できる都市がこれからは必要です。そのモデルとして富士山は恵まれています。人口20万人というと、都市の文化をワンセットつくることができるんです。文化施設のある都市から車で30分くらいのところに自然学域構想があると、そこの市民は自然生活と都市生活をダブルで楽しむことができるのです。富士山をテーマにしたソフトづくり、例えば彫刻のコンテストや歌舞伎、踊り、エッセイ、詩などをつくることで、自由時間をより人間らしく生き、それらの作品を収納する箱物をつくる。富士文化の創造と享受を通じて、市民は自己開発を図り、富士山に対する考え方や感受性を豊かにして文化としての生活を楽しむのです。こうした富士文化を中心にしながら、地域間交流、国際交流を広げて市民の人間関係を豊かにする。そういう受皿の場所として富士・愛鷹山麓自然学域構想というものをつくっていくべきではないでしょうか。

司会
 ありがとうございました。

(続いて参加者との質疑応答が行われ、渡辺市長が最後に次のように述べました。)

富士市の未来のために自然を保全

渡辺市長
- 写真あり -

市長
 今までの御質問や先生方のお話を伺い、結論としましては富士市のアイデンティティを確立しなさい。そして勇気を持ってやんなさいということだろうと思います。富士山という、すばらしい自然の資源を、私たち富士市民が、また、日本の人たちがどうかかわって質の高いその自然文化を生かしていくか、そして、自然の保全をびっちりやっていきなさい。こういう結論だと私は理解しました。先生方からはそれぞれすばらしい御提言がございました。大変勉強させていただいたわけでございます。その意味で心から感謝をいたしたいと思います。
 市は現在、これまでいただいている市民の皆さんの意見や富士愛鷹山麓地域環境調査研究委員会の報告などをもとに、富士愛鷹山麓地域環境管理計画の策定を進めています。策定の時期は平成元年度末ごろの予定です。
 環境管理計画に関する御意見等は、環境管理対策室 内線 2676へ。

- 写真あり -
( 写真説明 ) 自然に親しむ(10月10日、丸火自然公園で行われたグリーンアドベンチャー大会)
添付ファイル
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