前田新田の松林に「春日大明神」と刻まれた石碑が、ひっそりと建っています。今回はこの碑にまつわるお話を前田新田の市川裕(ゆたか)さん(78歳)に語っていただきました。
市川裕さん
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神様が夢枕に
今から70年以上昔のお話です。前田新田に悪い病気にかかり、寝たきりになってしまった人がありました。いろいろな薬を飲んだりお医者さんにかかったりしましたが、病気は一向によくなりませんでした。
ある晩のことです。病気で苦しんでいる人の夢枕に神様があらわれました。そして次の様に語りました。
「ワシは富士川で産まれた石の神じゃ。その昔、津波を防ぐ神としてこの地域に住んでおったが、今は流されてしまって潤井川の河口に横たわっておる。ワシを拾い上げ、春日大明神と刻めば、そなたの病はすぐに治るだろう」
たちどころに治る
翌朝、家の人が潤井川に行ってみると、長さ2メートル50センチ余り、周囲は3メートル近くあろうと思われる大きな石が流れ着いていました。
早速、人を集め、大勢の人の手で石を拾い上げました。そして、現在の場所に祭ると、村人の病気はたちどころによくなりました。
当時は大騒ぎだった
市川さんは石を捨い上けた時のことも覚えています。「ありゃねえ私が5つか6つの時分たったね。50人ぐらいの人が、舟を運ぶ時に使うころを敷いて運んだよ。当時は大騒ぎだったもんだ。春日大明神はそれから後に津波や富士川の洪水に遭ったけど、ビクともしなかったね。今は、地元の人でも春日大明神を知らない人が多くなって、寂しいね」と語ってくれました。
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( 写真説明 ) 春日大明神