鷹岡の久沢に狸久保というところがあります。昔、このあたりはタヌキが多く、通る人をばかしたと言われます。今回は、狸久保に伝わる「犬の呪文」の話です。
道端にうずくまる娘
昔、鷹岡の北部を通って甲州へ塩や魚を運ぶ道がありました。
ある日、田子の浦の魚屋が甲州へ行った帰り道、天間沢を渡って坂道にかかりました。秋の日は暮れるに早く、あたりは既に暗くなり始めていました。
ふと前を見ると、きれいな娘が道端の石に腰をかけて泣いていました。魚屋は一体どうしたのかと尋ねました。娘は「私は甲州へ奉公に行っています。母が病気だというしらせを受け、ここまで来ましたが、目の前に人だまがあらわれました。きっと母が死んだに違いありません」と言いました。
魚屋は「それはかわいそうだ。私も同じ方向だから一緒に行こう」と励まし、先を歩き始めました。
タヌキのいたずら
しばらく行くと、すっかり暗くなりました。すると、生温かい風が魚屋のほおをなでました。魚屋が振り返ると、どこへ消えたのか娘の姿が見えません。「はて?」と思いながら前を見ると、目の前に一本の大木が道いっぱいに生えています。
魚屋は「これはタヌキのいたずらに違いない」と思い、素早く足元の小石を拾って石に「犬」という字を書くや、力いっぱいその木に投げつけました。すると、大木は二つに裂けて倒れたので、魚屋は一目散に逃げ帰りました。
ムジナ塚という地名も
小林邦降さん
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久沢北の小林邦隆さん(73歳)は「昔の狸久保のあたりは人家がなく、本当にタヌキがいただろうね。子供のころは近寄れなかったよ。タヌキのことをムジナと言い、ムジナ塚という地名もあるよ」と語ってくれました。
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( 写真説明 ) 教育会館の北側を狸久保と言いました