昔、津田村に裕福な一軒の旧家がありました。しかし、この家は仕事の失敗で、だんだん暮らしが苦しくなり、とうとう雨漏りのするあばら家になってしまいました。その上、主人が病気で、稼ぐこともできません。
その家に、ずっと前からタマという一匹の猫が飼われていました。主人は毎日、少ない御飯をタマと分けあって食べていました。
ある日、タ飯を食べた後、寝るころになって、「タマや、もう寝ることにしよう」と言って、タマを捜しましたが姿が見えません。どこかへ遊びに行ったのだろうと思って、主人は寝てしまいました。
翌朝、主人がまくら元をふと見ると、お金が置いてあります。数えると8文です。「おや?こんなはずはない。確かに何にも置かなかったはずだ」と、わけがわかりません。でも、 主人にしてみれば8文というのは大金です。(きっと神様が恵んでくれたんだろう)と神棚を拝んで、お金をいただくことにしました。
その次の朝も、まくら元にお金が置いてあります。次の朝も、その次の朝も……。不思議に思った主人は、タ飯を食べて外へ出かけるタマを、そっとつけてみました。そんなこととは知らないタマは、河原へ出て、あたりを見回してから、川の中に生えている青い藻を前足で取っては頭につけます。それを何度も繰り返し、タマは目の不自由な人の姿になりました。
「そうだったのか。タマが盲人の姿になって、人からお金を恵んでもらっていたのか」と思うと、涙がほおを伝わりました。ある晩、主人は、「タマよ、おまえにまで苦労をかけてすまない。でも、私も体が丈夫になって、働けるようになったからもうやめてくれ」と言いました。次の日、タマはどこかへ姿を消したということです。