山づくりの競争
昔、上野(こうづけ)の国(群馬県)の山に悪いてんぐが住んでいて、人々に悪さをしていました。
ある日、神々が集まって相談しました。それは、駿河(するが)の国と甲斐(かい)の国の境(さかい)へ高い山をつくって、そこから四方を見渡し、悪い神や、いたずらてんぐを取り締まろうという相談です。
それを聞いたてんぐは、
「おおい、そこに集まっている神様たち、わしと山づくりの競争をしないか。おれが勝ったら、おまえさんがたがつくった山は、壊してしまうというのはどうだ」と声をかけました。神々は、苦笑いしながら答えました。
「よろしい。だが、おまえが負けたらここから追っ払ってしまうぞ」
「ようし、一晩のうちにお前たちの山より高いのをつくるぞ」
と、てんぐは地を掘り始めました。
大きな仁王さんのような体(からだ)で運ぶ土は、もっこいっぱいです。負けるもんかと、どんどん高くしました。
逃げたてんぐ
てんぐは、悠々と掘っていましたが、ふと気がつくと東の空が白白としています。あわてたてんぐは、もっこから手がはずれて、土をこほしてしまいました。
「しまった!」
と思いながら、振り向いてみると、明々と夜が明けた平野の向こうに、神々がつくった山が、高く高く、天へ届きそうにそびえています。
それを見たてんぐは、どこかへ逃けていってしまいました。
そのときてんぐがつくった山を榛名山(はるなさん)、土を取ってへこんだ所を榛名瑚、もっこをこほした所を一畚(ひともっこ)山というようになりました。
神々がつくった山が富士山で、土は近江(おうみ)の国(滋賀県)から運びました。土を取った後の大さなくばみが、琵琶湖になったのだといいます。