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【広報ふじ昭和62年】ふるさとの昔話

川尻一丁目の荒れ間のキツネ

 須津地区の川尻1丁目に、農業用水のための池があります。今は地下水をポンプで吸い上げていますが、昔は清水がわいていました。
 今回は、この池の付近に伝わる伝脱「荒れ間のキツネ」を紹介します。


2匹の古ギツネ

 川尻1丁目の中で、岳南鉄道のすぐ南側の地域を「荒れ間」と呼んでいます。ここには古くから大きな池があって、アシやマコモが生い茂り、その池の周りには林がある寂しいところでした。
 昔、ここに人を化かすのが上手な「おせん」「おこん」という古ギツネが住んでいました。そして何人も化かされたので、人々は怖がっていました。
 ところが、神谷に住む元気のいい若者が、
「キツネが人を化かすなんてことがあるものか。おれは絶対に化かされないぞ」
と威張って、勢いよく荒れ間の林へ出かけていきました。


キツネの嫁入り

 ちょうど林のそばまで行くと、どこからともなく、大変にぎやかな声が、がやがやと聞こえてきました。
「さては、出たな」
と思って声のする方へそっと近づき、道端にしゃがんで待ち構えていました。するとにぎやかな声はだんだん近くなって、目の前までやってきました。よく見るとそれは花嫁の行列でした。若者は、(どこの家の祝言かな、それにしても美しい花嫁だなあ)と、うっとりと見とれていました。


頭をそられた若者

 花嫁の行列はにぎやかな笑い声を残しながら、だんだん遠ざかって、ついに見えなくなりました。
「あっ、今のはキツネの祝言だったかもしれない」
と気がついた若者が、ふと頭へ手をやってみると、今までふさふさしていた頭の毛が1本もなくなって、つるつる頭にそられていました。

(鈴木富男著「富士市須津の史話と伝説」より)
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