橘田権治さん
2月の末から3月にかけて、沖合いを低気圧が幾度か通る。寒く明るい冬型の天気はその都度くずれ、森に雪や雨を降らす。そして春一番、雷鳴がとどろき、ときにはひょうを降らし、または豪雨となる。しかし、間もなく空は青く樹林帯まで真白になった富士がさかんに雪煙を上げる。そんな繰り返しのうちに春は確実に近づき、アセビの花や白梅がほころび、ミツマタ、キブシ、アブラチャンの花が白に黄色に咲き匂う。そんなある朝、水辺でヤマアカガエルがしきりに鳴き、やがて八重咲きの菊花状の卵塊が水底に目立つようになる。野鳥やリスの動きが活発になり、ウグイスの初音が聞こえ、ニワトコ、ノバラ、シバヤナギが芽吹き、シュンランの花やフキノトウが顔を出す。彼岸が近づくと、ヒキガエルが水辺に集まりゼリー状の長い卵塊が水底にゆらめく、その頃、ヤマアカガエルの卵はかえり無数のオタマジャクシを追い回す子供たちの声が森にこだまする。そして、マメザクラの花がようやくほころび始め、森はにわかに春めいてくる。
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( 写真説明 ) ジャムを食べるリス