私たちが誇る日本一の富士山、この富士山に、第33代推古(すいこ)天皇のとき、摂政(せっしょう)であった聖徳太子(しょうとくたいし)が馬に乗り、空を飛んで富士登山をしたという伝説があります。今回は、鈴木富男著「富士市の伝説と昔話」の中から聖徳太子の登山の話を紹介します。
山の神に教えを請う
聖徳太子が摂政の頃、良い馬を献上させた話は有名です。多くの馬の中で、すばらしい馬が一頭いました。
太子は大層喜び大切に飼わせました。その年の秋、調教ができたのでためし乗りをしました。太子がまたがり、手綱(たずな)を引きムチをあてると、馬はすごい勢いでとびだし、東の空へ飛んでいきました。アッ、と驚いた宮人(みやびと)たちは、顔色を変えて騒ぎだしましたがどうしようもありません。
ところが3日目の朝、太子はひょっこり帰り「とても愉快だった。空へ飛び上がって、雲の中をしばらく飛んだと思ったら、富士山の頂上だったよ。富士山を見物して帰ってきた。」とおもしろそうに話しました。
御殿へ上がった太子は、富士山の出来事を詳しく話しました。「頂上におりると大きな岩穴があった。この穴を進むと金色(こんじき)に輝く岩が並び、金銀でつくられた美しい門があった。さらに進み、奥の院らしい境内(けいだい)へ入ると両眼をぎらぎらさせ、剣(つるぎ)のような舌をだし、口から火を噴いていている大蛇(だいじゃ)がとぐろを巻いていた。
私はこれが山の神だと思い、ひざまずいて『人民のためにどのような政治をしたらよいか教えてもらいたい』とお願いした。すると大蛇は、大日如来(だいにちにょらい)の姿に変わり 『和(わ)をもって貴しとなし、あつく三宝(さんぽう)をうやまい、礼をもって本とせよ』とおおせられた。私は必ず教えに従うことを約束して、再び馬に乗って帰ってきた。」と一同に話しました。