市は、市内の自然や緑を調査し、これからの環境行政の指針とするため、昨年4月から横浜国立大学の宮脇先生を中心とする、横浜植生学会に調査研究をお願いしていました。
この調査研究がこのほど終わり、先生は「どんなにお金を出しても買えないもの、それはその土地が持っている自然環境です。自然を守るのは現代に生きる人たちの義務です」と力説しました。
市民のみなさんに富士市の自然や緑がどのような状況にあるかの概略をお知らせします。
■自然の緑も開発の波で
日本の他の地方と同様に富士市においても、かつて新しい町づくり、集落作りには必ず土地のもっともよいところ、あるいは人間の眼に相当する弱い自然のところは残し、守り、その土地本来の照葉樹を植栽して、ふるさとの森を形成してきました。それが市内に残されている多くの、いわゆる鎮守の森や寺院の森です。
さらに赤渕川、須津川沿いの急料面にもウラジロガシ、アカガシなどのカシ類を中心にした照葉樹林による溪谷景観が残されています。
しかし、海岸のクロマツ林から沖積低地のタブノキ林、台地のシイ林などから、もっともきびしい急斜面や尾根筋のモミ林、イロハモミジケヤキ群集の針葉樹や、夏緑広葉樹林の自然の緑も新しい開発の波のもとに現在急速に改変、消耗をしいられています。
■保護すべき自然
いままで何らかの理由で残されている斜面や海岸沿い、あるいは河川沿い尾根筋などの樹林や、残存自然植生は、実は同じ自然の一員である人間の眼に相当するようなきわめて人に荒されやすい弱い自然です。
この弱い自然をわれわれの祖先は時間をかけて、わずかですが残してくれました。
田子浦海岸から富士川、潤井川などの河川沿い、また愛鷹山や富士山に向かって傾斜高度を増していく渓谷沿いの急斜面、尾根部などでは点状あるいは線状の小面積のところも含めてまだまだ自然植生が残されています。
愛鷹山のヤマボウシ、ブナ群集あるいはマメザクラ、アカショウマ群落などの残存自然林、さらに富士山中腹以高の残存ブナ林、ミズナラ林、海抜1,500メートル以上のシラビソ林などは、きわめて重要な残存自然植生です。
したがって、できるだけ自然度の高い人間の干渉に敏感な郷土の森、ふるさとの緑をいかに残すかということが環境保全の第一前提条件になります。
■潜在自然植生図の利用
現在までに現存植生図が作成されている富士市では、さらに人間の生活域の周辺から、さらに富士山の南斜面全域において現在よりもより多様で安定した次の世代に残り得る、将来あまり管理費のかからなくてすむふるさとの森、緑の環境創造の科学的な処方箋として富士市全域の潜在自然植生図を作成しました。
この植生図を基礎に新しい緑の環境を形成する場合に、このような科学的診断図を使いきることが必要です。
そのためには、行政はもちろん市民のみなさん一人ひとりが、潜在自然植生図を読みとれる程度になることも必要です。
潜在自然植生図は、いわばきたない着物の上から素肌、素顔の中味を判定しようとする方法です。
■都市地域の緑の必要性
市民がもっとも強く緑を望んでいる所は、大部分の人が生活している住宅市街地域です。
同時に日頃利用している公共施設であり、毎日通る道路や線路沿いです。そこでの緑は確かに季節感も必要ですが、基本的には潜在自然植生の樹木を中心にしながら小面積ではあっても立体的なピラミッド状の環境づくりが前提になります。
街路樹あるいは工場の周辺、住宅周辺の緑の必要性は単に防音機能、集じん機能、空気の浄化機能ということだけでは不十分です。
そこに生まれ育った子供たちが、将来、各地で想い出すふるさとのシンボルとしての緑でなくてはなりません。
- 写真あり -
( 写真説明 ) 本物の緑をと報告する宮脇先生
( 写真説明 ) 岩本山公園での中間調査報告会