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【広報ふじ昭和59年】ふるさとの昔話

愛鷹山の天狗(てんぐ)

 昔、愛鷹山には、いろいろな天狗が住んでいたということです。この天狗について、数々の昔話が言い伝えられています。今回は、この天狗の話を紹介します。


「おんにも、くりょう」

 昔、愛鷹山には、たくさんの猪がいて冬になると里まで来て、農作物を食い荒していました。
 こんな時、村人達は大勢で山深く猪を捕りにいきました。あるとき、大勢で猪を追っているうち遅くなったので山小屋で昼間捕った猪を料理し、酒盛りをはじめました。
 火に鍋をかけていると、急に炉(いろり)の火が吹き出し、鍋の肉がクタクタ音をたてて煮えはじめました。みんなが不思議がっていると、小屋の戸が開き、ぬうっと大きな毛むくじゃらの手が出ました。
 みんな、びっくりして小屋のすみで震えていると「おんにも、くりょう」と人の声ともつかない声でいうのです。猪の肉をくれといっているのですが、恐ろしいのでだれもくれません。そのうち、元気のいい若者が鍋の中で煮えたぎっている猪の肉を大きな手にのせました。
 すると、まったく大きな声で、「熱い」と声をだしてとんでいってしまいました。この大きな声が、山中にこだまし、しばらく静まりませんでした。やがて、元の静かな山にもどると人々は「今のは天狗だな」と話あいました。熱い肉を手に持った天狗は、これにこりて二度と山小屋付近にでなくなったということです。
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