駿河(するが)の富士と下田(しもだ)の富士は、きょうだいでした。下田富士が姉さんで、駿河の富士は妹です。
とても仲良し(なかよし)で、小さい時からかばいあってきました。姉さんの下田富士は、いろいろと妹のめんどうをみて、雨が降ればからかさ雲をかけてやり、風が吹けば長い雲の手をのばしておおってやりました。
やがて、年がたつにつれて駿河の富士は、だんだん美しくなりました。
長いすそをふもといっぱいにひろげ、朝日夕日にかがやく頬(ほお)は紅色に染り、そのあでやかさは誰(だれ)もかないません。
それにひきかえ姉の下田富士の方は、丸くふくれたボタモチのような顔で美人ではありませんでした。妹の駿河富士に比べて自分が美人ではないことに気がついた下田富士は、娘心にそれがたまらない悲しみになって、だんだん妹と顔をあわせなくなりました。
そして、とうとう伊豆(いず)と駿河の間に大きなびょうぶを立てて、妹がのぞいても見えないようにしてしまいました。そのびょうぶが天城山(あまぎさん)です。
妹は悲しそうに、「お姉さま!伊豆のお姉さま!どうかなさいましたの。お顔をみせてください」と叫(さけ)びながら、つまさきで立って背のびをしました。でも、下田富士は妹の声を聞きながら、ますますからだを縮(ちぢ)こめて顔をみせません。
「お姉さま!お姉さま!」と妹は背のびをし、姉は隠(かく)れよう隠れようとからだを縮こめました。
そのため下田の富士はますます背が低くなり、逆に駿河の富士はどんどん背が高くなり、とうとう日本一の高さの山になったとさ。