紅ちりめんの武士
これは、江戸時代の始めころのお話です。
徳川家康には多ぜいのお姫様がありましたが、なかでも美しい一人のお姫様が三河国におこし入れすることになりました。江戸を出てから7日目、お姫様の美しい行列は富士川にさしかかりました。わたし船にのって水神の岩あたりまできた時です。今まで進んでいた船が急に止まってちっとも動かなくなってしまいました。
それを見た船頭はまっさおになって「これは大変なことでごぜえます」と呼びました。「この船のだれかが、富士川の大蛇にみこまれてしめえました。そのお方にとびこんでもらわなければみんな大蛇にのまれてしまいます」大蛇は深い川の底から、美しいしい紅ちりめんのお姫様をみこんでしまったのです。
おともに、平杉金次郎という武士がいました。金次郎はお姫様の身がわりになろうと、紅ちりめんの打掛を頭からふんわりとかぶりました。
ものすごい黒雲が空いちめんをおおい、いままで動かなかった船がまたスルスルと動きはじめました。みんながほっとためいきをついた時、川が真赤な血の水に変わって、大蛇の死がいと金次郎の死がいとが重なり合って流れていきました。
あとに残ったお姫様の一行と村人は、大蛇をたいじしてくれた平杉金次郎を岩淵の清源寺に、てあつくほうむったということです。