【広報ふじ昭和49年】自然環境を変えるのは危険!
富士・愛鷹山麓の自然環境の解明、土地利用の望ましい姿は……。昨年5月から本年3月まで、「富士・愛鷹山麓地域の自然環境保全と土地利用計画調査委員会」を組織して、山麓地域の自然のしくみや、今後の土地利用に当たってどのようにしたらよいか調査を行なってきました。調査委員会では、(1)地形・地質・水文(地下水)、(2)気象、(3)植生、(4)生物相、(5)住民意識、(6)土地利用保全、(7)施策への提言の7調査班を組織し、それぞれ専門的な調査研究を続けてきました。そして、このたび調査委員会から渡辺市長に対して、調査報告書が提出されましたので、そのあらましをお知らせいたします。
市では、この調査結果を指針として、4月1日から富士・愛鷹山麓地域におけるゴルフ場、別荘地などのおおむね10ヘクタールをこえる大規模開発は、一切認めない方針(前回の広報ふじに掲載)を打出し、今後規制していきます。
残された貴重な自然林の保護を……
まず調査委員会は、このたびの調査研究を通じ、山麓地域における自然環境保全と土地利用にあたっての基本方針をつぎのように導き出しました。
富士山麓地域の環境保全を考えるにあたっては、景観的な観点はもとより、生物が育っている自然の度合などを知るとともに、災害に対しての安全性を確保しなけれはなりません。また、人間が手を加えて自然を造り変えることのできる限度を決め自然環境の保護復元、利用方法を検討し、市民のための安全で豊かな環境を造り出す必要があります。
調査班別に提言された自然環境についての考え方は……
■地形・地質・水分調査
富士南麓地域は、もろく弱い地質構造をもっているので、できるかぎり人間が自然を造り変えないで、保全する必要があります。特に水をとおさない溶岩地域やマサ層の地域、火山灰、火山れきの地域などは、安易に人の手を加えるべきではありません。また、開発によって森林が少なくなると、同じような雨の降り方でも、水の出方がはやくなり、一度に流れ出る量も多くなります。
■気象調査
気象災害の面から見ると、風水害が増えています。災害の引き金となっている雨量について見ると、標高300メートル以上の地域は、平地に比べ3〜4倍の降雨量が予想されることもあります。したがって、中流や上流地域の自然環境を変えることはたいへん危険です。
■植生調査
富士・愛鷹山麓の自然景観の中核はいうまでもなく森林景観です。しかし、天然林など自然植生は少ない地域で、現在残っている自然植生はきわめて貴重です。残っている自然植生は植物群落のちがいを問わず天然林保護区、あるいは環境保全林として保護すべきです。特に、上部のブナ林、スギ天然林、下部の社寺林などのところどころに残っているスダジイ林などは、保護していかなけれはなりません。
■生物相調査
山麓地域で、蝶類や甲虫類が最も多く生息しているのは、クヌギ、コナラなどを主体とした雑木林、次いで草地で、植林地はかなり少くなります。このような傾向は、他の昆虫類全般についてもいえます。
鳥類相をみると、今宮丸火線、富士七色石裾野線では、地域の狭い割に種類が多く、植生との関連性を無視できません。さらに水との関連は富士山麓の鳥類には不可欠の条件といえます。
■住民意識調査
住民意識の調査結果によると、市民は自然のなかに配置された自然公園、青少年施設など市民施設の整備に積極的であるといえます。その反面、大部分の市民は、ゴルフ場、レジャーランドなど大規模開発には否定的です。しかし、市民みずからの参加という方法がとられる限りにおいて、開発そのものに対し全面的に反対していません。したがって、今後、富士山南麓における保全・利用計画を策定していくにあたっては、市民の積極的参加を進めていくことが重要です。
■土地利用保全
山麓地域で大規模開発が行なわれた場合の影響を予測するため、類似地域で行なわれた開発事業を見ると森林機能の破壊は水害などによる災害をもたらしています。したがって森林地域を利用する場合は、森林機能を低下させないような施策が必要です。
土地保全構想など8項目の提言が
なお、調査班別に出された基礎的調査の結果から、自然環境保全区分を決めました。保全区分を決めるに当り、植生からみた自然度、土地利用の移り変わり、気象災害などを地図に表わし、あらゆる方向から富士市の土地利用について検討しました。保全区分は目的に合わせ、厳正保護地域、良好自然環境地域、林業振興地域など7地域に別けました。
そこで、今後、市が富士・愛鷹山麓の自然を守り、土地利用を進めていくうえで必要なことを調査委員会が環境保全施策への提言として、土地保全構想の策定、大規模開発に対する規制など8項目にわたって提言しました。
・土地保全構想の策定
環境保全施策の基本として、自然環境の保全を基調とした富士市土地保全構想を策定すべきである。
・富士市条例の制定
緑と環境の保護・復元・整備に関する市条例の制定が必要である。
・大規模開発に対する規制
現在民間企業によってゴルフ場・別荘地どの大規模開発が計画されている地域は、すべて保全すべき区域内に入っているので、一定規模をこえる開発行為は原則として一切認めない方針で進むべきである。
・自然環境の観測体制の整備
今後、富士市が各種開発行為に対しての指導や市みずから自然環境の保護・復元・整備を行なう際の判断基準を確立するため、降雨量の測定、各河川の流量測定など自然環境に関する観測体制を整備すべきである。
・樹林などの指定と保護
農業振興地域内のあちこちにある シイ、カシなどの傾斜地樹林、屋敷林、社寺林などは、環境を保全する上に重要な存在ですから、保護していくべきである。
・補償・助成などの方策
自然環境の保護・複元・整備のための土地利開の規制などを行なうにあたっては、土地の所有者、占有者が受ける損失に対して、適切な補償ないし助成の方策を用意すべきである。
・積極的な整備方策
良好な自然環境保護地域復元地区林業振興地域休養保健林地区については、とくに積極的な整備方策を具体化すべきである。
・市民参加のシステムづくり
今後市が土地保全構想を策定し、市条例を制定し、地域、地区などの指定を行ない、個別的な整備事業を実施する過程においては、市民の十分な参加をえて、市民とともに進めていく方法を造り出す必要がある。
調査結果をもとに大規模開発を規制
以上が富士・愛鷹山麓地域の自然環境保全と土地利用計画調査委員会からの最終報告のあらましです。
そこで、市は、自然環境を保護し市民にとって安全で良好な生活環境を保全するため、調査結果報告の本旨を尊重し、提言を施策の中に取り入れていきます。なかでも対策が急がれていた富士・愛鷹山麓地域の大規模開発計画に対しては、4月1日から規制を行ないました。規制した地域は、富士市域のうち富士・愛鷹山麓の標高200メートル以上の地域でおおむね10ヘクタール以上の開発計画です。
- 写真あり -
( 写真説明 ) 調査委員会の田畑委員長から4月1日渡辺市長に調査結果の最終報告が
( 写真説明 ) 目的に合わせた保全区分を設定
添付ファイル
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