東比奈の龍水山医王寺境内の丘の上に薬師堂があります。昔から眼病には特に霊験あらたかだというので医学の進んだ今日でも、お詣りする人があるそうです。
このお堂に安置されているご本尊は行基菩薩の一刀三礼の作仏だと伝えられる等身大の薬師如来の木像です。像は蓮花台に座し、左手に薬壷を持ち、右手は与願印を結んでいます。
インドでは、薬師如来は須弥山(しゆみせん)のはるか東方の瑙璃光土に住みいっさいの病者に良薬を与える仏として仰められてきました。
日本でも、病気平癒(へいゆ)の仏として、現世利益(りやく)の仏として、奈良時代ころから大衆の信仰を集めた仏様です。ここの像は円満慈悲の姿がよく表現されている、すぐれた仏像です。
「行基菩薩行化年譜」によると、「医王寺駿河国富士郡比奈 楠の大木を以て薬師如来を刻み御本尊となす」と記されています。このことから考えますと、この木像はたいへん古いものと思われますし、医王寺の創建も非常に古い時代であることがわかります。
先年の台風の時、裏山のシイの大木がたおれました。そのシイの根本から青銅製の経筒、鏡、磁器の香具が出土しましたが、恐らく平安時代のものでしょう。
なお、この寺には永禄9年11月7日付の、今川氏真の寄進状も残されています。(鈴木富男稿)
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